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書評:『99歳ユダヤのスーパー実業家が孫に伝えた 無一文から大きなお金と成功を手に入れる習慣』

以前気になっていた本を実家で見つけたので読んでみた。

99歳ユダヤのスーパー実業家が孫に伝えた 無一文から大きなお金と成功を手に入れる習慣

99歳ユダヤのスーパー実業家が孫に伝えた 無一文から大きなお金と成功を手に入れる習慣

概要

あるユダヤ人家計の孫と祖父の対話を文章にして、章ごとにまとめと追加した形式。

祖父はトルコ育ちのユダヤ人大富豪で、孫はイギリス生まれの映画配給会社の経営者。

孫が病気の祖父をお見舞いにトルコを訪れるところからスタートして、1週間の滞在中に1日1テーマずつ対話していくという形で話が進んでいく。

実業家である祖父の生い立ちから大まかな成功するまでのエピソードからお金やビジネスについての考え方を紹介している。

翻訳書ではなく、著者は日本人でインタビュー結果をまとめた、ということらしい。登場するユダヤ人一家との関係は記載がないので不明。

感想

やはりお金に忌避感を持たないという点が強調されている。この点は予想通り。

意外なポイントととしては、仕事が煮詰まっている時に歩くことを勧めていたり、勝負アイテムを持つことを勧めている点。 紹介されているのは突拍子のないものやお金持ちしか実現できないものではない点もポイント。

ただし、メモを取るにしてもその都度書くのではなく1日の仕事の終りに明日以降の予定を検討しながら書くなど一味違う。

対話形式系の本なのでとても読みやすい。自己啓発系は一歩間違うと宗教化したりセミナーへの勧誘目的の本があったりするけどこの本はそういう本とは 一線を画している。有名な自己啓発書よりも良心的でおすすめ。

書評:『「そ・わ・か」の法則』

引き続き小林正観さんの著書の書評です。

「そ・わ・か」の法則

「そ・わ・か」の法則

他の本と内容が被っていてかなり残念な感じは否めませんが、他の本を読んでいない分には問題ないので良しとしましょう。

基本は掃除、笑い、感謝を推奨している本です。事例はことごとく非科学的。よく笑うことの効用については医学的に実証された事例を紹介していますが。

最初の掃除の話は流石に食傷気味なんで読み飛ばしています。

他の本と被っている部分は仕方ないとして、この本の真骨頂はp.166からの、「本当の優しさをの意味を考えよう」という箇所。

優しさというのは、大きな力をもっているものが、力の弱い者に対して、その強い力を行使しないこと。命令だ、などと言って行使しないことです。

この解釈は面白い。生徒をどう指導するか、先生は頭をかかえるだろうけど。

相手に威圧的・強権的に接する先生が全くダメとは思わないけど、タイプの違う先生がある程度いないと成り立たないかな。

実際に手を出すわけじゃないけど、怖い先生というのは必要だと思う。ただ、何でもかんでも強圧的な感じで強要するアプローチは確かにいじめと変わらんよなあと思う。

社会のあちこちに弱い者いじめの構図がある訳で、子供に「弱い者いじめはダメ」と言っても説得力はない。理想論だけど人間味のある尊敬できる先生が他にも面白いことたくさんあるよっていう方がいいと思う。

尊敬できる大人が増えるといいよね。


本全体の感想としては、スピリチュアル系というか、精神論で行くなら斎藤一人さんの本の方が性に合うかな、という感想。

気分の落ち込んでいるときにラクになる一冊(書評:『「人生を楽しむ」ための30法則』)

まず最初にことわっておくべき点として、非常に非科学的で敗北主義的な本。少しでも気分が楽になれば儲けもの。

「人生を楽しむ」ための30法則

「人生を楽しむ」ための30法則

感謝とかトイレ掃除とか、よく笑いましょうとかそういう本。すでに亡くなられた小林正観さんの本の一冊。

個人的に少し救われた気分になったのは以下のくだり(p.146(第4章))。

生まれ変わりの回数を重ねるごとに、親との関係が悪く育ってくとか、経済的に辛い思いをしたことがあるとか、障害を持って生まれてくる、または家族に障害を持った子どもが生まれてくる、というような状況が与えられてきます。一般的にいう問題、いろいろ面倒なことをたくさん与えられている。それを笑顔で、感謝の目で捉えられるかどうか、のレベルまできているということです。

輪廻転生を信じていることが前提。だから何やという話なんだけど、自分の置かれた状況に不満のある人間からすると、普通に幸福な人よりも自分は生まれ変わりの回数が多いから上級者モード*1でプレイしているんだ、とみなして自分を無理やり納得させる。

まあ平均以下の経済状況の家庭に育った人間の場合、なんか優越感に浸れないと精神が持たないんで。

基本的な内容は冒頭に書いた通り非科学的な感謝万歳論。

まあしないよりは感謝した方がいいし、そりゃ掃除した方がいいし、不機嫌そうにしているよりは笑顔の方がいい。

斎藤一人さんよりはるかに宗教臭いところがちょっとつらい本。

変な人が書いた成功法則 (講談社+α文庫)

変な人が書いた成功法則 (講談社+α文庫)

*1:ゲームでいるところの難易度が高いモード

書評:『アメリカ人の物語1 青年将校ジョージ・ワシントン』

ちゃんとした書評を書こうと思いつつ、うまくまとめられずに入手から1年経ってしまった……。

『アメリカ人の物語 第1巻 青年将校ジョージ・ワシントン』およびアメリカ人の物語シリーズについての書評(感想)記事です。

電子書籍版の方は合本版でリリースされている分は全部読んでいるので、一部まだ紙媒体として出版されていない部分についての感想を含みます。

技術書は電子書籍の方が断然いいですが、人文系はハードカバー本の方が紙の質感、組版、その他諸々含めて趣があっていいと再認識している今日この頃。

アメリカ人の物語シリーズの概要

同じ名称でKindleでリリースされていたものが商業出版としてシリーズ化・再編成して出版されているもの。

アメリカ人の物語 第1巻 青年将校ジョージ・ワシントン (アメリカ人の物語 1)

アメリカ人の物語 第1巻 青年将校ジョージ・ワシントン (アメリカ人の物語 1)

特筆すべき点はアメリカ史の専門家が書いている点。小説家が歴史をネタに書いた小説の類と違って余計な脚色・演出の類は基本的にない。

現在のところ紙媒体版(商業出版)は2巻のまで発売されています。

タイトルが似ているように、構成にローマ人の物語と似ている部分もある。しかしながら、あの独特のくどい塩野氏の個人的な好みについての文章はない。なのでローマ人の物語のようなくどい文章が嫌いな人でも問題なく読めるはず。

Kindle版は合本版と分冊版が別れているので注意。またKindle版の第1巻はワシントン登場以前の、初期の移住者についての話から始まっている。

このシリーズのご利益

シリーズ全体を通して読むことで、以下について深く学べるはず。

  • 大統領選挙の選挙制度に至った背景
  • 二大政党制の源流*1
  • 連邦制の思想的背景
  • アメリカの建国の父と呼ばれる人々の人となり
  • 公共の善という概念

もちろん娯楽として読んでも面白い。

※ あくまでも個人的見解です。

主な内容

電子版の1巻の、初期の入植者とネィティブ・アメリカンの逸話(ジェームズタウン)はカットされ、ワシントンの家族・生い立ちの話からスタート。 家族の話は病気で亡くなったお兄さんの話が印象的。ワシントンの生い立ち、教育、そして軍人としての初期のキャリア。農園主としての生活ぶりなど。独立戦争の開始のきっかけとなった事件(第5章)のところまでが紙媒体版の1巻の内容。

この巻の特色は当時の時代背景と、当時の生活事情と人々の価値観。続巻では政治思想にもフォーカスが当たっていく。 当時の人たちの価値観とか、社会情勢も詳しい。インディアンがブランデーに弱かったとか、限嗣相続(げんしそうぞく)とかいうシステムは知らなかった。

そもそも教育を通じて古代ローマの影響を少なからず受けていたとか、政治的な主張に際してペンネームに古代ローマ人の名前を使ったりとか、地味な文化的背景についても興味深い。

電子版との差異

電子版の感想など:Kindle Unlimitedで読んだ本と簡単な書評(2016年9月後半) - ながいものには、まかれたくない

  • 表紙がオリジナルよりエレガントな雰囲気に(天使の挿絵)
  • 地図が見やすく、必要に応じて挿入図が追加されるなど詳細化*2
  • 参考文献と注釈のカット*3(紙面の都合から必然)
  • 挿絵のモノクロ化(webでカラー版が閲覧可能)
  • 紙媒体版の方が読みやすい印象
  • 年表が省略されている

出版社による編集が入った関係か、全体的に洗練されている印象。インターネットを使えば個人で本を出せる時代だけど、やはり出版社のプロの力は大きい。

ルビの振ってある箇所が大幅に減った。そもそもルビを振る必要のある単語自体がなくなって読みやすくなってる。電子書籍版は(理系の人間が)普段目にしない難しい単語が多くて読みづらかったが、 そういう箇所はほとんどなかったと思う*4

話の途中で登場する人物 の生い立ちに言及するところで年代が前後する箇所があるので各章ごとの年表はあったほうがよかったかも。

著者ご自身のページに電子書籍版に対応する年表はある。

アメリカ大歴史年表/アメリカ歴代大統領研究ポータル

感想

高等専門学校から大学に編入学した関係*5で、アメリカの歴史については小学館の「漫画世界の歴史」ぐらいの知識しかなかったのでこのシリーズ(電子書籍版含む)を読んだことによる知識の向上は大きかった。

アメリカの建国に関わった人物について、生い立ちや人となり、その人物の生きた時代背景について知るとガラリと変わった。 おそらくワシントンやフランクリンの個人の伝記を読んだとしても、それは個々の点か線を辿っているだけでしかない。

その点このシリーズだと面は無理だとしても点と線の絡み合った網のような感じでアメリカの独立前後(予定通りに刊行されれば南北戦争まで)の歴史と、アメリカという国家の思想的背景というかバックボーンのようなものを理解を深めることができると思う。

固有名詞として知らなかった人名や出来事の関連性が(ある程度)わかってくるというのは知的好奇心の観点はから面白い。

読みながら考えたこと

以下は紹介している『アメリカ人の物語』のどこかににそういう話が書いてあるということではなく、個人の勝手な感想です。

記録を残すことに関して

個人のやりとりした手紙などの資料が残っているというのは驚き。9.11のようなテロや小規模なものを除くと大きな戦乱に巻き込まれていないという点を差し引いても様々な歴史的な資料・建造物が保存されている点はすごいと思う。

公文書をさっさと破棄したり、情報公開請求しても黒塗りの文書しか出てこない日本に比べるとその差は大きいのでは……。

どうも政府と国民の関係というか、国の成り立ちの違いと言えばそれまでだけど、ちょっと違いがありすぎる。

現状のアメリカについて

ワシントンが生きていたら今のアメリカ外交をどう評価するのか。国際問題への積極的な介入(特に軍事的な介入)を支持するのか。

アメリカの建国初期に大統領は現在の大統領選挙の状況をどう思うんだろう。マスメディアを大々的に使ったやり方を好ましく思わないんじゃないかという気がしている。

そもそも建国初期の人々は現状のような多民族国家を望んでいたのかというと(私の理解では)ちょっと違うのではという感想。奴隷制度に関するスタンスを読む限り、あくまでも王政や宗教的権威からの自由、「自由な市民」で構成された国家を目指していただけで今のアメリカの政治的イデオロギーは初期の理想から派生した部分と、選挙を有利にするための後付けの部分があるんじゃないかというのが今の勝手な個人的見解。

時代の要請というか時代のうねりのような、個人の意思によってそうなったんではなくて、考え方の異なる集団同士のぶつかり合いの結果、そうなった、のかな、と。まあ歴史ってほとんどそういう当事者の思惑の斜め上で進んでいくんだろうけど。

まとめ

シリーズ1巻のメインはジョージ・ワシントンですが、日本史でいうと明治維新とその立役者についての人物ドラマみたいで面白いです。

そのうちローマ人の物語のようにビジネス誌の「経営者のオススメ本」特集に紹介される日が来るのではないかと密かに期待しています。

歴史関係の本が好きな方にはお勧め。価格がネックならKindle Unlimitedで電子版が読めるので、まずはそっちを読んでみるといいと思う。

特にこの先刊行される南北戦争についての巻を楽しみにしています。


以上です。

*1:このあたりの経緯について書かれているのは電子書籍の方の合本版の4巻か5巻あたり。紙媒体ではまだ先

*2:記憶違いで元からあったかもしれない

*3:あとがきによるとWebページへの掲載を予定しているとのこと

*4:むしろ読み手の問題

*5:高等専門学校の世界史の授業は適当でかつ語族がどうとかいう話が中心で古代王朝の話で終了した。そもそもセンター試験は受けていない。

書評:『ザ・プラットフォーム』

Kindle Unlimited経由。買わなくてよかったよ。

ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?

ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?

タイトルの「プラットフォーム」は間違いで、「コミュニケーション消費」に改めるべき。

前半は海外のITベンダ(Google、Facebook、Microsoft のプラットフォームについて、著者の推測を交えつつ解説している本。特にコンセプト動画の解説は面白い、があくまでも著者の見解であって公式なものではない。

前半の「共有価値観」というキーワード、4章の「ビジネスモデルの重力」というキーワードは興味深い。一方、自分がプラットフォームを立ち上げる、運営するために役立つかは疑問。

で、「どうやったらこの連中を倒せんの?」という問いには回答がない。  

はっきり言ってこの本より孫子の兵法を勉強すべきかなと思う。

超訳 孫子の兵法

超訳 孫子の兵法

5章は面白いが、日本型プラットフォームなるものは有害だと確信した。いかなる理由であれ顧客を甘やしてはいけない。

ネーミングという子供騙しで劣化コピーを正当化していたら国際競争に負ける。 

メールに互換性無視でShift-JISの独自拡張を使った連中の頭の中はこうなのかという点ではかなり興味深い。

目先の小銭拾いに熱中しているうちに気がついたら自分の庭が海外勢(外資系企業)の草刈り場になる。

消費者が目先の利益で動くのは仕方ないとして、経営側がリテラシーの低い顧客に媚び続けたから昨今の「お客様は神様」という風潮になっている。

5章の「健全な保護主義」というキーワードも疑問。安心してリスクを取れるようにプラットフォーム側が一部の企業を優遇するというのは聞こえはいいが、ただの依怙贔屓(しかも組織を優遇して個人を排除している)。何よりそういうリスクを取れるように支援するのは国家とか社会というプラットフォームの仕事で営利企業の仕事ではない。

プラットフォーム運営企業に権力を持たせてどうする。

この本の著者はやたら日本的なものの良さを強調しているけど、結局「人が介在している」、つまり人海戦術で、そして著者は搾取する側にいる。一定量の労働がないと成立しないものをGoogle やAppleにはない」って喜んでる。

労働は善っていう前提。

Amazonも宅配便のドライバー抜きにはどうにもならないんだけど、連中は自動運転とかドローン配送とか人を減らして人間を労働から外そうとしているという点で根本的に違うんじゃないかと思っている。

『プラットフォームは人を幸福にする』という意見については大賛成。ただしそれは日本人によるものではないと思う。他の国の人に任せよう。

だってケチくさいもん。


技術系の人や自分でプラットフォームを立ち上げたいと言う方は別の方の本の方がいいと思う。

ソーシャルアプリプラットフォーム構築技法 ――SNSからBOTまでITをコアに成長する企業の教科書 Software Design plus


こちらとしては以上です。


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