学生時代の自分に読ませたい本…『脳はバカ、腸は賢い』
久々に一気読みしてしまいました。
下記のブログで紹介されていたので読んでみましたが、面白い本ですね。
ざっくりいうと腸内細菌をとっかかりにした雑学本でしょうか。
腸内細菌と脳、(ある意味IT系の職業病?である)うつ病や子供の発達、健康全般の関連について著者の実体験を交えて書かれています。
その辺の健康関連の書籍と違って、一歩退いたスタンスで押し付けがましくないところも◎。
食物繊維をたくさんとることを推奨されていますが、玄米菜食とかベジタリアン系の健康本と違って、肉食や食の楽しみを否定しない、という点も新鮮に思います。
以下、各章の内容紹介と感想。
第1章 『腸が脳より賢い』
現代日本社会と他国との比較。脳と腸の比較。著者の体験談が面白いです。 脳がいかに騙されやすく、客観的ではないかについて、つらつらと書かれています。
この章は知識欲を満たしたい人には楽しめる章。
最強の精力剤として「ミミズ(の抽出物)」を飲む人がいるという話が紹介されていますが…。
第2章 『幸せな脳は腸が作る』
ドーパミンやセロトニンといった快楽系の脳内ホルモンの前駆体は腸内細菌が作るという話。
ドーパミンは必須アミノ酸のフェニルアラニンがないと合成できません。また、セロトニンも必須アミノ酸であるトリプトファンを食物から摂取することが必要です。
しかしこれらのアミノ酸が多く含まれる食品をいくら食べても、腸内細菌がバランスよく増えていないと、脳内にセロトニンやドーパミンが増えてこないのです。これらの「幸せ物質の前駆体は、腸内細菌がいないと合成できないからです。(p.76)
適当にアミノ酸サプリを摂ってもダメだってことですね。
人体における幸せ物質のセロトニン量は全体で約10mgくらいですが、その90%が腸に存在し、脳のほか体の各臓器に運ばれているのです。
脳内ホルモンと言いつつ腸由来なのか…。
主に腸内環境の悪化とうつ病などの精神疾患との関連性がネズミを使った実験で説明されています。うつ対策に関心がある方は必読かも。
要約すると、精神状態を良好に保つには各種ホルモンが必要で、アミノ酸とビタミン類(要するに補酵素かな?)だけではなく腸内細菌の働きが必須。 なので腸内細菌のバランスを良好に保つ必要があるのでは?というのが著者の主張。
うつ病になった人の脳内セロトニン含有量は少ないとされています。セロトニンは卵や魚、乳製品などに含まれているトリプトファンという必須アミノ酸を原料に町内でビタミン類の力を借りて合成しています。 だからと言ってうつ病になった人に豆や魚、乳製品を食べてもらうとうつ病が治るかというとそうではありません。腸内細菌がバランスよく存在しないと、合成するときのビタミンが不足しセロトニンが作れないのです。(pp. 81−82)
セロトニンというと、睡眠への影響については知っていましたが、うつとの関連は知りませんでした。
高専出身*1の自分としては「生物」という科目を履修していないこともあり*2、人体の消化吸収についてよく理解できていないのでこのあたりはかなり勉強になりました。
第3章 『腸を可愛がれば、脳は良くなる。』
英才教育の弊害、ならびに子供の発育と腸内細菌についてアレコレ書かれています。 独身の人間としてはここはスルー気味ですが、以下、気になったところをいくつか。
生まれた直後の赤ちゃんの腸内細菌が一度大腸菌だらけにならないと、赤ちゃんの腸はその後の正常な発育が望めないのです。 一度腸内細菌が大腸菌に占拠されないと、免疫力をつけることができずアトピー性皮膚炎を発症し、それが一生治らなくなるのです。(p.128)
これは意外。無関係そうに見える腸内細菌と皮膚炎に関連があったんですね。
つまり、食物繊維を多く摂る国は自殺率が低く、食物繊維の摂取が少ないと自殺率も高くなるのです。(p.151) (中略) 腸内細菌が多いと幸せ物質が脳に十分送られます。少ないとセロトニンなどの神経伝達物質が脳に少なくなって、うつ病などになり自殺が増えるということです。(p.152)
意外なところにうつ病対策のヒントがありますね。ベジタリアンの方がみんな幸福そうに見えるかというと、ちょっと疑問ですが。
第4章 『食べ物は脳をだます、腸はだまされない』
この章は食生活と腸内細菌、健康について。特に血糖値と脳の関連。私の気になった箇所をいくつか挙げておきます。
日本臨床栄養学会による最近の研究発表では、「朝食で脳を働かせるためには、糖質だけでは不十分であり、タンパク質や脂質などのバランスの良い栄養素が必要である」と言っています。
最近の栄養学のいうことの結論は大概これですよ。おきまりの「バランスの良い食事」ですね。 言うのは簡単ですが、実際はなかなか厳しい…。
女性のストレス解消には「食べること」だと良く言われます。彼女は収入や将来についても常に不安があり、パン、麺、ご飯などの安い食材しか買いませんでした。 たださえ少ない収入を貯め込むことに執着し、友人と服を買いに行ったり、おいしいもの食べに行くという楽しみも持てず、いつも我慢していました。だから安価でどこでも簡単に手に入るポテトチップスなどのお菓子を夜な夜な食べて発散させていたのです。 (中略) その結果、脳も腸も障害されたようでした。まもなくパニック障害や不安障害などの精神症状が起こり、体はアトピー性皮膚炎に悩まされるようになりました。(p.190)
私も似たような生活をしていたことがあります。高専の寮にいたころ、友人と毎晩のようにコンビニへ出かけてはアイスクリームやスナック菓子、シュークリームなどを買って食べ、また寮の食堂が開いていない土日の昼・夜はコンビニ弁当やカップ麺、という生活です。
大学・大学院時代はともかく、就職後も「肉や揚げ物ばかりは良くない」という考えから炭水化物中心の食生活だった時期があります。
幸い脳をやられたりはしなかったようですが、間接的には目の病気につながったのではないか、と思わずに入られません。
上記の食事の何がまずいか、本書によれば、「炭水化物と悪い油」のかたまりだということですね。 ざっくりまとめると、
- 糖質・脂質の摂りすぎ
- 血糖値の上昇下降が激しく怒り、精神的に不安定な状態が続く
- 食欲を制御する機能の低下
- トランス脂肪酸の問題
という感じでしょうか。
オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸
以前にも話題になってましたね、オメガ3脂肪酸。亜麻仁油とかえごま油に含まれるという成分。
オメガ6もオメガ3も必須脂肪酸ですが、現代の食生活ではオメガ6脂肪酸に偏っているとか。 本書の述べるところでは積極的にオメガ3脂肪酸をとりなさいとのこと。
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トランス脂肪酸
気になったのは下記のくだり。
脂肪を研究している科学者たちの間では、油に水素添加することを「オイルをプラスチック化する」と言っています。 水素添加によって作り出されるトランス脂肪酸は、プラスチック同様。自然界では分解されない物質で、もちノン自然界には存在しない物質なのです。
以前にもマーガリンのことを「食べるプラスチック」と呼ぶ人がいるのは知ってましたが、こういうことだったんですね。 水素添加した油というのはまさしくマーガリンです。
まあ今更ですが昔の自分にお説教したいですね。こんなものばっかり食べてんじゃやねえよ。みたいな。
怖いですね、コレ。まあアメリカの話でしょうけど。
言い換えるとファストフード店のフライドポテトは、ポテトの表面にプラスチックをコーティングしたようなものです。 ファストフードのフライドポテトが腐りにくいのはそのためでしょう。
ここ数年ハンバーガーチェーンには寄り付かない生活をしていますが、安くてうまいは要注意。 やはり安いものにはそれなりの理由があるということですね…。
では何を食べればいいのか?
「しっかり食べろ派」vs. 「粗食派」の議論に対する著者の答え。
摂取カロリーだけで健康が決まるのではなく、食品の内容や食べ方のバランスが健康を決めるのです。 粗食という概念を「ごはんと漬け物と味噌汁だけ」だとすれば、栄養素から見ると炭水化物がほとんどで、これだけでは粗食が長寿を導くなどということは考えられません。 一方、しっかり食べろ派でも、炭水化物と悪い油を使った食品ばかり食べていては同じだと思います。(pp.211-212 ※強調は筆者)
なかなか厳しいところを突いてますね。粗食がいいと言っても、そもそも粗食ってどんな食事なのか、漠然としすぎですよね。 日本食が健康にいいとはよく言いますが、「伝統的な日本食」という表記もありますし、いつの時代の日本食なのかと。
で結局のところは、
人類発生当初に私たちが食べていたような、まるごと地球をいただくような食事が理想的です。(pp.212-213)
だそうで。ちょっと抽象的ですねぇ。農耕が始まる前の私は狩猟採取時代に近い食生活と理解しました。
まとめ
うつ対策に関心のある方は2章を中心に、子育てに関心のある方は3章。 健康に関心のある方は4章をじっくり読まれるのがいいと思います。
著者の物事に対する適度な「距離感」はなかなか気持ちいいですね。文体もクセがなく読みやすいです。
こんなこと書いていいのか?(職場などで)干されたりしないのかな、この人?という箇所もありますが…。 どちらかというとそこが面白いんですよね。
他にも興味深い箇所がありますが、それは読んでみてのお楽しみということで。
ではでは。