知識のブラックホール

知識収集活動全般。

やっぱり大事なのはバランス感覚(書評:『考える腸 ダマされる脳』)

以前に紹介した『脳はバカ、腸はかしこい』と同じく藤田先生による腸内細菌エッセイです。前著の書評は以下。

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前著が2012年、今回紹介する本は2013年発行です。

大まかな内容の紹介

  • 1〜3章:概ね過去のエッセイ本と同じ内容
  • 4章:腸内細菌を増やすための食事について
  • 5章:運動や呼吸法など腸を鍛えるヒントあれこれ

ざっくり書くとこんな感じ。

気になったところ・印象に残ったところ

乳酸菌やビフィズス菌を摂取すれば善玉菌が増え、腸内環境は間違いなく良化します。それはそれでいいことなのですが、強引に善玉菌だけを増やし続け、悪玉菌を根こそぎ死滅させたりしたら、腸内環境はかえって悪化してしまいます。なぜならば、悪玉菌にもそれ内の存在理由があるからで、腸にとって有益な部分もあるのです。

悪玉菌の代表格、大腸菌にもビタミンを合成するなど有益な働きがあるらしい。何でもかんでもやりすぎる、極端に走るのが日本人の悪い癖、というのが著者の見解。いやはやお説ごもっとも。大腸菌というのは完全な悪者ではなかったんですね。というか善玉・悪玉という名前がちょっと単純化しすぎているのかもしれません。

黒住教の教祖、黒住宗忠の「この世に捨つるものなし」というのを連想させますね。

腐敗菌を根こそぎ殺すような添加物が、腸内細菌も殺すことは十分に考えられるのです。

ソルビン酸の殺菌力は極めて強力だという研究結果も紹介されています。できるだけ自炊したいですね。いやホントに。

腸内環境がよくなればセロトニンドーパミンといった「幸せ物質」も増えるのですから、祖父母世代の表情が柔和で幸せそうだったことに納得がいきます。
こういう幸せを作っていた基本は食生活にあるのですが、その食生活の根幹を成しているのが野菜などの食物繊維の多い食材です。(pp.137-138)

日本の伝統食のおかげで質素な食事でも当時の人々は健康で幸福だったらしい。確かに明治時代あたりの農村の写真をみると表情が穏やかにみえる気がする。偏見になってしまうけど、欧米の人々の顔つきがどこか険しいのは食文化から来ているのか。 この理屈でいくと、非行に走る少年も栄養不足というより食物繊維の不足という解釈も成り立つように思える。

近年、アルツハイマー病や認知症の原因究明や治療法に関する研究が進んでいますが、私は腸内環境を良化すればかなりの認知症は予防できると考えています。(p.142)

ぜひ頑張って研究を進めていただきたい。

だだし、いくら野菜や海藻などが腸にいいからといって、「野菜偏重」になってしまうのはおすすめできません。
世の中には、病気を治そう、健康な体になろうと人一倍頑張り、食事にも細心の注意を払う人がたくさんいます。 それはもちろん悪いことではないのですが、その執着心が強くなり、神経質になりすぎると逆効果を招きかねません。(p.145)

以前の私がまさにコレです。フィンランド症候群にも通じるものがあります。健康に気を使う人ほど病気になる、という話を見事に説明しているのではないでしょうか。

食べることの目的には健康で丈夫な体を作ることがりますが、それと同じくらい大きな目的に「楽しみ」があるはずです。(p.146)

いい文章です。この「ゆるさ」が著者の真骨頂です。前著の感想にも書きましたが、マクロビオティック系の修行僧のような厳しさでもなく、かといって野放図な暴飲暴食をすすめる訳でもない。このバランス感覚が他の健康法の書籍とは一線を画すように思います。

その他

  • ファイトケミカルの摂取には野菜スープがおすすめ
  • 水溶性の食物繊維は発酵しやすく、ビフィズス菌などの善玉菌を増やす
  • 不溶性の食物繊維は、善玉菌をあまり増やさないが、腸内のカスや最近の死骸を排出するのに役立つ
  • 運動は「ほどほど」+「ちょっときつめ」が理想的
  • 作り笑いでも免疫力向上に寄与する

まとめ

以前に紹介した『脳はバカ、腸はかしこい』に比べると、腸内細菌を増やす食事のレシピの紹介などより実践的な内容に重点が置かれているようです。出版社がことなることもあり、ページを開くと雰囲気が違いますが、内容的にはかなりの重複があります。 子供の英才教育や腸内細菌とメンタルへの影響に興味があるなら前著。どちらか迷うなら発行年の新しい本書だけ読めば、著者の考えはほとんど理解できると思います。

難点を挙げるとすると、Kindle版がないこと、表紙のデザインがちょっと淡白かな。

それではまた。

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