四則演算から心理学へ 書評:『良い値決め 悪い値決め ——きちんと儲けるためのプライシング戦略』
ずいぶん間が空きましたが、今回のお題はこれ。 某社のCTOさんのブログで紹介されていた本です。
良い値決め 悪い値決め??きちんと儲けるためのプライシング戦略
- 作者: 田中靖浩
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2015/08/14
- メディア: Kindle版
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いつも通り、章のタイトルなどの二重カッコは引用です。
面白い・興味深いと思ったところ
以下、各章で面白い・興味深いと思ったところを抜き書きしています。 電子書籍につき、ページ番号は無意味なので省略します。
第1章
「世の中は単純であるほうがいいが、過度な単純化はよくない」 by アインシュタイン
45度線分析(損益分岐点の図)への批判。要は単純化しすぎ、らしい。これはまさに四則演算世界ですね。それも引き算と割り算の世界。 著者のいうように、「儲けは一個の儲けの積み重ね」。これは掛け算と足し算かな。 言い換えると、一回の取引あたりの利益の積み重ね。
結局のところ、日本は四則演算の国なんですよね。
何かの本で読んだのか聞いたのか、忘れましたけど、日本のマスコミは応用数学が苦手というのがあったような気がします。
時事刻々と変化する販売価格と原価・販管費。四則演算では表現できませんよ。 確率統計なしで市場規模や今後の売上予測を立てるつもりかと。
予算というなの売上目標…これはいやですね。
恐ろしいと思ったのは以下のくだり…
「企業が躓くのは、正しい問いに間違った答えを出すからではなく、間違った問いに正しく答えるからである」
イノベーションのジレンマを彷彿とさせますね。
第2章 『ドッグ(DOG)ビジネスは「無料」に向かう』
読んでいてインターネットは貧乏神、という話を思い出した。一番素晴らしいと思ったのはピカソの逸話。
ある夫人の依頼でスケッチを描いたピカソ(所要時間3分間)。価格を訪ねる夫人に価格を告げると
当然、「たった3分描いただけで?」という反応。
対するピカソの答えは…。
「いいえ、私はここまで来るのに、一生を費やしています」
いや、素晴らしいですね。日本人は謙虚を美徳という前に、こういう自信とういか、覚悟を決めなければ。
第3章 『値下げが成功する場合、失敗する場合 』
この章の要点
- 商品1個当たりの固定費については後で考える
- 商品1個当たりの価格(変数)と、商品1個当たりの変動費に着目する
- (商品1個当たりの利益(M)×販売量(P))が固定費(F)より大きくなる状態を創り出す
- 値下げ分をカバーするだけの売上を確保するのは容易ではない
仕入れ量の増加による「商品1個当たりの変動費」の変化が考慮されていない?
第4章 『そろそろ「値決めの哲学」を持とうじゃないか!』
値下げを阻む壁
- 自らのキャパシティの限界
- ライバルの値下げ追随
- 顧客の消費感情
バリュー・プライシング式
売価 − 利益 = コスト
顧客がどれだけの価値を認めてくれるかに着目する。
そういえば何かの本に「価格は高ければ高いほどいい」みたいな話があったな。
伝家の宝刀?
予算不足その他を理由に値下げを迫られたら…
「こちら少ない時間で運営しており、高額をいただかないとお伺いできません」
素晴らしい。
第5章 『顧客満足「高」価格をつくる「まぜプラ」』
ビジネスモデルの転換とか。キーワードは「また来よう、また買おう」かな。 ジレットの話など、消耗品モデルから、フリーミアムではない2着目無料の無料モデル、そしてオンラインとオフラインの相乗効果への変遷。
第6章 『顧客に心地良いサプライズをつくる「ここプラ」
定価の半額で商品を3個売る場合よりも、「3個買えば1個無料」のほうが利益は大。 顧客への訴求力も大。
モノは言いよう
悪い例:『英語力が不足する』
良い例:『日本語が得意です』
英語を無理に勉強するより、漢検とか日本語検定の1級を取得して、日本語力をアピールするほうがいいかも知れない。
第7章 『トップセールスに学ぶ、比べさせて売る「売る」』
有名な松・竹・梅。これは世間体と損したくないという心理をつくプライシング。
最初に低価格だと、あとから値上げするのは困難。そこで定価は高めにし、キャンペーンなどの口実で最初だけ値引きする。
アンカリング
最初は相手に不利な条件を提示して、後から相手に有利な条件を示す。
返報性
意図的に高めの価格を提示して、妥協するふりをして本来意図した価格を提示する。 相手が妥協したから自分も妥協せざるを得ないという心理を利用する。
ハンター×ハンターという漫画に、わざと不合理な要求を突きつけて妥協を引き出すってのがありましたね。チンピラの手口。
第8章 『顧客の困りごと、悩み、不満を和らげて2.5倍売る「やわプラ」』
顧客への共感の大切さ。ほんの一言、添えるだけで印象が変わる。事務的で冷たい印象を持たれるか、そうでないかで次に繋がるかが決まる。
問題解決が得意なエリート・コンサルタントの男性には離婚が多いのです(おっと、バラしちまったぜ)。
原文ママです。おいおい…。
気になったこと
人工知能は?
アナログの優位性を謳ってはいるけれど…。人工知能の進化を計算に入れてないのかな? というところが気になる。
「気が効くねぇ」をディジタル化できるか
いくら顧客の誕生日や住所を把握しても、果たして「気が効く」というのを デジタル化できるかだろうか?
そのあたりが著者がアナログを押す理由かな。
デジタル化で思いやり、気配りが消えていくのかな。
まとめ
顧客心理だけでなく、値決めをする側の心理(=メンタルブロック)の問題がかなり大きいのかなという印象。
生兵法は怪我のもと、とはいうけれど実践的なプライシングや価格交渉のノウハウがたくさん詰まっている。 フリーランスから経営者まで、非常に良い本だと思う。
ではでは。