実は日本お高齢者の生活水準は高い…(書評:『マーケティングに使える「家計調査」』)
紙媒体のほうを買った後にKindle版発売という悲しい状況。買ってから1ヶ月以上経ってますが、なんだかんだでようやく読了。
まあそういうコトもありますが、どうせ出すなら同時にリリースしていただきたい。
マーケティングに使える「家計調査」 世界最大の消費者ビッグデータは「宝の山」だ
- 作者: 吉本佳生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/08/28
- メディア: Kindle版
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総務省が実施している「家計調査」のデータをもとに色々と考察をしている本。学校教育の話から都道府県別の傾向まで。
本の概要
第1部がいくつかの具体例を挙げて従来の消費・経済理論の不備をデータ分析結果から指摘するという内容。 第2部は都道府県別の消費傾向(食品)の解説。
第一部で解説されているのは、概ね以下のような内容(各章のタイトルではないです)。
- 秋田の小学校教育 と教育コスト、進路への波及効果
- 高所得層への売り込みに成功している品目の分析(コーヒーより紅茶)
- 冬服バーゲンと消費の実態
- 生活水準とエンゲル係数の誤解
- 食パンの価格と消費量など消費量と購入価格の分析
感想
一番ショッキングなのが第4章。高齢者に殺意がわくほどにショッキング。他の章も面白いけど一番印象的なのは第4章なので省略。
第4章
エンゲル係数についての誤解。一般的な認識では、エンゲル係数が低いほど生活水準が高いという解釈。というか私もそう思っていた。
著者の主張は逆で、相対的に高収入になると、生活水準が上がり結果としてエンゲル係数が下がる、とのこと。世間一般の認識は原因と結果を取り違えているらしい。 昨今の日本では非正規雇用の比率の高い若年層は所得が低く、中高年層は比較的所得が高い、と考えてよいはず。 そうなると、年代別のデータを確認すればいいことになる。
p.137 図表47上「家計調査(2人以上世帯、2013年)」
どう見ても若年層である29歳以下のエンゲル係数が低い。 今までの世間の認識でいくと、若者が最も生活水準が高く、世代が上がるにつれて生活水準が下がるという解釈になってしまう。逆に著者の主張通りなら、70歳以上の生活水準は若者よりもはるかに生活水準が高いことになる。
年功序列神話が崩壊しつつあるとはいえ、今なお日本企業の年功序列は健在である。どこの誰が中高年の生活水準が低いなどと考えるのか。 事実、本書に記載の年収階級別のグラフでも収入の高い世代ほどエンゲル係数は低い。若年層かつ世帯人数が2人以上というケースは共働きでそこそこ収入はあるが、住宅ローンその他の理由で食費を抑制しているんじゃないだろうか。
本書では70歳以上の世代は食品の平均購入単価が高いというデータを用いて高齢者の生活水準の高さを説明している。
p.135 図表45(元データの出所は「家計調査(2人以上世帯、2013年)」)
高齢者の支出額そのものは現役世代に劣るが、平均単価で見ると高級志向が強い。分かりやすく言うと、食べてる肉のグラム単価が高齢者の方が若者よりも上。 バラつきが激しいのかもしれないが、家計調査のデータは高齢者の高級志向をはっきりと示している。
要するに、高齢者の生活水準は低くない。 厚生年金受給者と国民年金受給者ではかなりの格差があるのだろうが、十分豊かな暮らしをしてる。
数量よりも購入価格に着目するとき、高所得層が高級商品を買う、というのは理解できる。年齢別で見た時に、70歳代や60歳代の世代が一番高価な商品を買っている品目が多いという……。 高齢者は結構お金持ってる。
高齢者に対する誤解と現実…
- 相対的に見ると肉より魚であるが、実際は肉も結構食べる
- 肉類の購入価格(グラム単価と考えてもいい)は最も高い
- コートなどの衣類のうち、最も高額な商品を買っているのは70歳代
- 交際費も結構使っている
もうね、高齢者福祉?はぁ?って感じですよこれ。どう見ても肉食系。新幹線で焼身自殺やらかした爺さんもいるにはいるけど。 飽食・高級志向のツケを税金にまわすなボケってレベル。
確かにうちの婆さんも普通に焼肉食べに行くとか言うとったな。叔母も外食中心で脳梗塞だかなんかになってたし。老人天国じゃないか。……後期高齢者医療制度とかぬるいこと言ってる場合じゃない。
老人は持ち家率も高い上に子育てとか費用負担もない。年金を受給できるようになれば*1、失業のリスクに備えて自己研鑽を図る必要もない。十分な収入のある老人からはきっちり取り立てないと。 国民年金と厚生年金で随分格差があるんだろうけど、金融資産があるような老人にはそれなりに払うか、若者のためになるような基金でも作ってもらわないと。
医療費の自己負担比率は、国民年金の受給者と、厚生年金の受給者で差をつけてもいいんじゃないだろうか。
第2部
都道府県別の消費傾向分析。個性的で結構面白い。
- 寒い地方に共通してカップ麺の消費が多いらしい。そもそもカップ麺は冬によく売れるとか。
- 北海道は意外なことに牛肉も牛乳も全国平均よりも消費量が少ない(つまり、外貨?を獲得するための商品)
- 関西はパン好きでマーガリン好きらしい。
- 寒いところや東日本は豚が好きで、西日本は牛肉が好きらしい。
東京はさすがに物価高めなのか、購入単価が高い。その分、エンゲル係数も高いというのもうなずける。
京都の特色でホタテが5割高いというのは納得。静岡に住んでいた頃と比べて何かと魚介類の価格が高い。 京都に住んでいて何のメリットもないことを実感。いやホントに。県庁所在地の中でトップクラスに損してないか?
以前聞いた俗説として、大阪の南側はお好み焼き、たこ焼きを筆頭に柔らかいものばかり食べていて、顎を使わないから脳への血流が少ない。そのため学力も低いみたいな説がある。が、食生活からそういう部分を裏付けられるかというわけでもなさそう。
まとめ
一言で言うと「目からうろこが落ちた」というのが正直な感想。 特にエンゲル係数の話と高齢者の生活実態。あくまでも平均値なんだろうけど、金持ってるし使ってるじゃないか。か弱い存在なんかじゃない。持ち家率は高いし、高級志向だし。 経済的に弱者は若者。平均値だろうから格差は当然あるだろうし、分散もみないとダメだろうとは思う。しかし総務省の資料、基本的に平均値ばっかでバラつき(分散)については何も書いてない。
理科系出身者の目で見ると、きっちりグラフの目盛りと凡例を入れろとか、言いたいことはいくつかあります。 総務省のページを見てもどれがどれだっけ?と思う人が多いだろうから、直接総務省のページのxlsファイルにリンクしても良かったのではないか。 というか、「自分で家計調査のページを参照してください」ではなくプログラミング系の本みたくサポートページぐらいあってもいいんじゃないか。
ま、何はともあれ面白い本です。旅行先の都道府県の消費傾向を調べてみるのはいかがでしょうか。
ではまた。