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書評:『隷属なき道』

購入から時間が経ってしまったけど読み終えたので簡単に。

隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book)

隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book)

概要

簡単にいうとユニバーサル・ベーシックインカムについての啓蒙書。

今では週休二日、1日8時間労働が普通だけど、どういう流れで今の労働慣行が出来上がったのか、詳細に歴史を紐解いている。そしてそこから、現在の社会問題の解決手段として「ベーシックインカム」と国境の解放を提案している。

ここ数年の世界各国の事例を紹介しながらベーシック・インカムのメリットを解説している。 イギリスのホームレスや、発展途上国への国際援助など貧困層に「まとまったお金」を無条件に渡すことで通常の福祉政策を上廻る成果が出た事例が衝撃的。

巻末の解説によるとタイトルは『隷属への道』のもじりらしい。

参考:ハイエク「新・隷属への道」 「自由の哲学」を考える 公開霊言シリーズ

感想

印象的な箇所の抜書きから。

ぼくたち世代の優秀な人の頭にあるのは、世間の人にいかに広告をクリックさせるかということだけだ」。かつて数学の天才と賞賛されたある若者が、最近、フェイスブックでこう嘆いた(33)。
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.318-321). 文藝春秋. Kindle 版.

このくだりをネットの紹介記事で読んだのが購入のきっかけ。

「貧乏人が貧乏である第一の理由は、十分な金を持っていないところにある」と、経済学者チャールズ・ケニーは言う。「ゆえに、彼らにお金を与えると、その状況が大いに改善されることは、驚くにあたいしない」
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.468-469). 文藝春秋. Kindle 版.

これこそまさに「先立つものは金だよ」という話。食べ物でもまとめ買いすれば安いのに、それができないために割高な弁当を買ったりせざるを得ないとかいくらでも具体例を思いつく。

スピーナムランド制度の話

これまでにもベーシックインカムに近い制度はあったのにもかかわらず当時の支配階級によって妨害されてきたというのも衝撃的。

例えば、イギリスのスピーナムランド制度。

イギリス南部のある地域では、もはや抑圧とプロパガンダだけでは大衆の不満を抑えきれなくなっていた。そこで一七九五年五月六日に、バークシャー州スピーナムランド村の行政官らが集まり、貧困層への支援を急ぐことに合意した。かくして、「勤勉ながら貧しい男性とその家族」の所得は、最低限の生活ができる水準(パンの価格と家族数から算出した)まで収入を補塡されることになった。
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.1203-1206). 文藝春秋. Kindle 版.

当時のイギリスにはもともと、老人とか未亡人への救済制度はあったとのこと。その上で「勤勉ながら貧しい男性」を対象にしているのが特徴。「収入が補填」としか書いてない。裕福な人は対象外だったのは確実だが、働かない方が得という制度にも見えず。

スピーナムランド制度はたちまちイギリス南部全域に広まった。当時の首相、ウィリアム・ピット(小ピット)は、それを国の法律にしようとさえした。どう見てもそれは大成功で、餓えと困窮は減り、さらに重要なこととして、革命の芽を蕾のうちに摘み取ることができた。
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.1213-1216). 文藝春秋. Kindle 版.

ところがここから反対派の暗躍というか妨害工作が始まっていく。十九世紀の暴動をきっかけに、結果としてこの制度は廃止されてしまう。

ロンドンでは、政府の役人は何らかの手だてが必要だと悟った。農業労働の状況、地方の貧困、そしてスピーナムランド制度について、全国的な調査が始まった。一八三二年の春には政府による史上最大規模の調査が行われ、調査官は何百人もから話を聞き、大量のデータを集めた。報告書は一万三〇〇〇ページにも及んだ。だがその結論は、一言に要約できる。スピーナムランド制度は大失敗だった、と。 この王立委員会の調査官らは、スピーナムランド制度は、人口の激増や賃金カットや不道徳な行為を招き、とりわけイギリスの労働階級の劣化を導いた、と非難した。
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.1235-1240). 文藝春秋. Kindle 版.

そして150年後。衝撃の結論。

一九六〇年代から七〇年代になると、歴史家らはスピーナムランド制度についての王立委員会の報告書を見直し、そこに記された報告の大半が、データの収集前に書かれたものであることを突き止めた。配布された質問状のうち、回答されたのはわずか一〇パーセントだった。さらに、質問は誘導的で、選択肢が限られていた。しかも聞き取りの対象者には、受益者がほとんど含まれていなかった。
ルトガー・ブレグマン. 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 (文春e-book) (Kindle の位置No.1258-1262). 文藝春秋. Kindle 版.

調査の責任者は誘導尋問が得意だったらしい。詳細は省くけど結局は恣意的な捏造報告書が世界を悪い方向に変えた、と。


スピーナム制度についてググると「失敗だった」ということになっているけど、そもそもの根拠たる報告書が捏造って。

参考(本文の注釈にあるリンク):https://www1.umassd.edu/ir/resources/poorlaw/p1.doc

これからの労働について

私の個人的見解としては、労働というのは暇つぶしの娯楽になるのではないかと考えている。スポーツという単語の語源が「気晴らし」であるように。

スポーツ自体は狩猟採取時代の狩りの名残みたいなものだと考えれば何も的外れではないと思う。

例えばサッカーはボールを獲物だと考えれば罠のある場所まで獲物を追い込む狩りみたいなもんだと言えなくもない。


ベーシッックインカムのせいで人が働かなくなるというのは搾取する側のロジック。

病気で退職した経験から言わせてもらうと、何もすることがないというのは結構苦痛。この苦痛から逃れるために仕事をするというのは十分あり得る。

まとめ

労働慣行の変化についての歴史書として読んでもいいし、娯楽感覚で読んでもかなり楽しめる1冊。

ベーシックインカムに反対の立場の方も読んで損はないと思います。

人工知能とITという脅威が実現を後押ししてくれるのではないかと期待している今日この頃。

それではまた。