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みんな本音では働きたくない、そうですね?(書評:『働かないアリに意義がある』)

少し前に一世を風靡した、というか話題になった本。読み終えてからかなり時間が経っていますが一応。

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

働かないアリに意義がある (中経の文庫)

この本が話題になったということは、実は……

みんな働きたくないんですね。

わかります。

概要

怠け者に働かない大義名分を与える福音書、ではないです。

真面目にアリの生態を観察した結果から、予備戦力というか交代要員を一定数確保しておいた方がいいという趣旨の本。 前半は「働かないアリ」がもたらす効用の解説、後半はアリの生態についての謎解き。いろいろとアリの生態に関する面白いネタが記載されているので読んで面白いです。

本文でも言及がありますが、アリの生態の研究というのは決して暇人の道楽ではないそうで、かなりの激務だったとのこと。

実際は1日に7~8時間の観察を2ヵ月以上続けるというハードな研究で、観察を担当した1名は疲労から途中で点滴を打ちながら観察を続け、血尿まで出した、という大変な実験だったからです。まさに血の滲む思いで遂行された研究なので、いまこうして本にまでなると、感慨深いものがあります。
長谷川 英祐. 働かないアリに意義がある (中経の文庫) (Kindle の位置No.631-634). . Kindle 版.

理工系の実験も研究室によってはかなりツライですが、生き物を相手にする研究もそれ以上にやばい、と。

学んだこと・感想

  • ハチやアリにも過労死がある
  • 動物は動くと必ず疲れるし、休息が必要(たとえ昆虫でも)
  • コロニー(アリの群れ)の危機に際して、すぐに全ての働きアリが行動を開始すると途中でバテて状況に対処できない
  • すぐに行動するアリと、そうでないアリが存在することで状況の変化への対応力が高まる
  • 「働かないアリ」とは他のアリに先を越されるなど何らかの理由で「働けないアリ」
  • どんな研究が役に立つかは、想定外の事態が発生するまでわからない(ex. 狂牛病の原因物質)

民間企業は「優秀な人材」を求めてしのぎを削っているけど、優秀でない人、普通の人はどこへ行けばいいのか、疑問に思いました。もちろん、平均以下の人も。

サラリーマンに向いていない人の行き場を社会として用意する必要がある、と思います。それも分かりやすい形で。

最近、欧米企業が従業員の多様性を気にしているのは政治的な理由だろうと思いますが、もしかすると多様なバックグラウンドを持った従業員の存在が企業の存続に寄与するケースも出てくるのかもしれないと期待しています。ただこの場合はそういう従業員の存在を組織として許容するような成績評価の基準がないとダメだろうと思います。

アリの場合はコロニーの繁栄あるいは種の存続という観点だけでいいけど、人間の作る組織では単純にはいかないので話がややこしくなる。

まとめ

何はともあれ普段は「働かない」予備戦力の存在と多様性がいかに重要かをわかりやすく解説している良書です。

ブームはすでにすぎているように思いますが、読書の秋ということでゆっくり読んでみてはいかがでしょうか。
それでは。

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