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タイトルと内容がずれてないかな……(書評:『10年後の仕事図鑑』)

割とサクッと読めたと思う。タイトルは無理せずに『ホリエモンと語る今後の社会と仕事』とか『落合陽一v.s. ホリエモン!! 今後の社会はどうなる!?』という感じで良かったんではないかな。

10年後の仕事図鑑

10年後の仕事図鑑

久しぶりに一般向けの本をしかも紙媒体で購入した。

概要

対談をベースに文章化したらしい。

前半はこれからの社会の変化から生じる、廃れる仕事と伸びる仕事について、ホリエモンこと堀江貴文氏と、落合陽一なる「うさんくさい(失礼!!)」人物がそれぞれ持論を展開している。

「うさんくさい」の出処は以下の動画(1分50秒あたり)。


【診断】AIに仕事を奪われるって本当!?

ところが後半は、これからの日本社会について、どういう生き方をすべきかについてのご両名の持論となっていて、仕事図鑑としての部分は2割もない。

もちろんAIに仕事を奪われないためにはどういう生き方をするかというのは重要だけど……。

内容的にはいい本だろうけど、タイトル詐欺じゃないか。

書籍全体としてはこの先数年の未来予測+生き方論という感じで買って損したとは思わない。そのあたりは著者が面白い人物だからだろう。

読者という第三者を意識しながらホリエモンと落合陽一氏が交換日記のように今後の社会と仕事についてエッセイを書いている、という理解がいいかも。

仕事図鑑というタイトルだけど、これからの社会の変化を肴に人生論を語っている本と思ったほうがいいかな。

内容について

人工知能についても仕事についてもはっきりした説明のないまま話が進む。内容は面白いし参考になる。

意図的なのかもしれないが、落合陽一氏は仕事の定義そのものに言及していない。

ホリエモンの担当パートは基本的にこれまでの著作や炎上したTwitterでの発言とブレがない。ただ、他の著作を読んでいると前半部分はあまり目新しさを感じなかった。

ホリエモンの現在のAIについての見解は以下の行に要約されている。

ただ、現在のAIは「人間の目と耳を代替する機能を持っている」に過ぎない。この先一番の鍵となるのは、AIが「”手”をもったとき」だと思う。
p.26(Chapter 1.)

「半人半AI」or 「半人力・半機械」という表現がキーポイントだと思った。

もっと踏み込んだ表現で言えば、人馬一体あるいは人車一体という表現の、「馬」or 「車」の部分をAIなりロボットに置き換えたイメージ。人ロボ一体でも人機一体でもいい。ちょっとゴロが悪いね...…。

Zero to One という本にも「人間 v.s. 機械」という構図は間違いだという主張が記載されていたと思う。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

個人的には「人間 or 機械」ではなく「人間 and 機械(AI)」でいけばいいのではないかと思っている。

大事なのは差別化とモチベーション。あとはバズワードにながされずに新しいテクノロジーを「使う」意識をしっかり持つというように理解した。

ホリエモンの表現だと「遊びのプロ」あるいは「没頭できるものを探す」。落合陽一氏の表現だと「農耕民族」から「狩猟民族」のマインドに切り替え用という話。

なくなる(廃れる)仕事・減る仕事

ホリエモン曰く、「血液型占いくらいの精度」らしいので注意。

ブルーカラーよりホワイトカラーのほうが失業リスクは高いらしい。付加価値の高い仕事でないと新しい機械などのテクノロジーの導入コストをまかなえない、というのがその理由。

ホリエモンと落合陽一氏で見解が多少分かれていて面白い。以下、一部抜粋。機械に置き換えるコストをペイできるか、定型業務化どうかがポイント。

  • 管理職(特に管理するだけの管理職)
  • 事務職
  • 現場監督
  • 営業職
  • エンジニア
  • 警備員など特定の場所にいることを要求される職業→ドローンなどで場所の縛りから開放
  • 運送業
  • 窓口業務系の仕事(コンビニ、銀行、公務員)
  • etc.

派遣社員とロボットやタブレット端末の導入コストを天秤にかける日が来るのはそう遠くない気がする。

管理職についてだけど、日本語の「管理職」という単語が駄目なんだと思う。英語だと"manager"。職務としては"management"で、確か「どうにかやりくりする」とかいうニュアンスだったはず。日本語の「管理」だとどうも数を数えてチェックする、程度の意味しかない。これだと人間でなくても良さそうに聞こえていしまう。

管理職が生き残るならちゃんとマネジメントしてもらわないと駄目だろう。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

エンジニアと言っても決められたパターンに応じて手順が決まっていたりするものは安泰とはいえないというのが落合氏の見解。

専門資格が必要なタイプも結構な割合で機械化できそうな気はする。IT系も顧客側に変なこだわりがなければパッケージソフトで済むわけで、そういう意味ではプログラマは安泰とはいえず、失職しそう。

Web系のプログラミングはヨソと似たようなサイトを作るとか、すでに実現できていることを別のプログラミング言語なりフレームワークで構築とか、会社ごとにカスタマイズして独自要件に合わせて追加開発なんてケースもあるし。

高度なアルゴリズム、あるいはライブラリなどのフレームワークをつくるような優秀な一握りのエンジニア以外は淘汰されそう。すでに仕様書からプログラムを自動生成するようなツールみたいなのはあるし。

生まれる仕事・伸びる仕事(業界)

特にホリエモンの主張を要約すると個人の趣味の活動や人間的魅力が武器になる。そういう意味では真面目な優等生より不まじめな遊び人のほうが有利な時代かも。

いい時代なのかどうなのか。

ドローンの操作は当面は(法規制とかあるし)人間がする仕事として挙げられている。車の免許の代わりにドローンの操作経験を要求される費が来るのかな。

以下、一部抜粋。

  • 個人経営の店
  • 職人
  • ショービジネス
  • 観光業
  • 宇宙開発
  • etc.

運送業でも美術品などのニッチな業界は残るという予想。非日常系の空間・体験などの産業は確かに伸びると思うけど、観光業はキャパシティの問題もあるし、そういう意味ではVR/AR系も非日常の体験という意味では流行るんじゃないだろうか。

ホリエモンの予想の方は自身が関わっているビジネスに関連してるものが中心という印象。

あとはいかにコモディティ化しないか、がポイント。

気になったポイント

悲観論や不安を煽る内容ではないkが、あくまでもIT脅威論を下地にしている。AIに仕事を奪われるという前提を疑わずに、どうしたら「仕事を奪われずにすむか」という話をしているところがちょっと残念。

www.itmedia.co.jp

編集サイドの問題という可能性もある。

何故かハッキリと「人工知能とはこういうものである」という説明がなされていない。人工知能についてよくわからないまま漠然と不安に思っている人が対象読者なのかもしれないけど。

人の不安につけ込みたいのか、勇気づけたいのか著者の側と編集側と意図がちょっとずれてるのか。そのあたりがタイトルと内容のズレに出ているのではないかと思う。

現状の深層学習(いわゆるDeep Learning)にしても、学習用のデータ集めとデータの前処理は人間がやる必要があるわけで、そういう技術的な限界についての減給もない。ホリエモンはともかく落合氏はある程度知っているんじゃないか。

対象読者が技術者ではないからしょうがないのか。

キーワードいろいろ

本文中に登場するキーワードで気になったもの

  • ニッチトップ
  • 「作業にハマる」
  • 「好きになる対象」
  • 「純粋な気持ちで没頭する夢」
  • 「自分をどう運用していくかが大切だ」
  • 半人半AI
  • 半人力・半機械
  • 一億層クリエイター時代
  • 『作業効率をあげようと、"AIを使いこなす”考え方をしている』
  • 時代の速度が上がっている
  • テクニカルイノベーション
  • ハードウェア発想
  • ソフトウェア発想
  • 「仕事の時間を生み出す」
  • ワーク・アズ・ライフ
  • リスク・アズ・ベネフィット
  • 肉磨き?
  • 「遊ぶ」「働く」「学ぶ」の三位一体
  • 心のコンパス

詳細は省略。

「ソフトウェア発想」という表現は金出武雄先生の「素人発想、玄人実行」を連想した。アメリカのIT系はハードウェアはコモディティでもソフトウェアで差別化しようとする傾向が強いので日本勢もそこは見習って欲しい。

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)

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独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則

独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則

感想

二極化の時代なんだろうと思った。あとはパソコン化スマートフォン化は問題ではなく、いかに情報発信系のプラットフォームを使いこなせるかが重要になってくるという理解。

自分のブランド化という話は、少し前に技術系のブログを席巻した、SOFT SKILLSという本でもエンジニアの生存戦略の手段として提案されていた。

SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル

SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル

流石に東大卒だけのことはあるので、「うさんくさい」という偏見を捨てて落合陽一氏の他の著作も読んでみるつもり。

まとめ

ざっくりまとめてみると、

  • 現状のAIには「手」がない(足もない)
  • AIにしろロボットにしろ導入コストがかかる
  • 人間 v.s 機械ではなく「半人力・半機械」
  • Uberなどのプラットフォームに組み込まれるのも選択肢の一つ
  • 何らかの差別化が必要

結局、機械というのは基本的に人間の指示に従って動くという点は変化しない*1。だからこそ、「こういうことがしたい」、とか「これが好き」という意志を持つ、意志を表現するのは人間にしかできない点が重要。

普段ネットニュースなどを見ているだけだとバズワードに踊らされがちだけど、経営者目線だと当然コストに意識が行く。そのあたりは日頃からそういう立場の人間と付き合いがないと難しい。

この本の内容が正解と捉えずに、一つの参考意見として自分で考える材料として社会の変化と向き合うのがいいのかな、と思いました。


ちょっと中途半端な感じなので後でリライトすると思います。

超AI時代の生存戦略 ―― シンギュラリティ<2040年代>に備える34のリスト

超AI時代の生存戦略 ―― シンギュラリティ<2040年代>に備える34のリスト

ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく

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*1:証明や空調の制御についてのIoT系の、環境変化に対して機械が自律的に判断する、というのはひとまず考慮しない

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