聴力低下と向き合うヒントの詰まった本(書評:『人生の途上で聴力を失うということ』)
図書館で借りて読みました。ざっくりと。
人生の途上で聴力を失うということ――心のマネジメントから補聴器、人工内耳、最新医療まで
- 作者: キャサリン・ブートン,ニキリンコ
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2015/12/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (1件) を見る
概要
この本は片耳の難聴から両耳の聴力低下を経験し、最終的に重度の難聴となった雑誌の編集者の奮闘記。聴力の低下をいかに受け入れるが本書のメインテーマ。
前半は補聴器や人工内耳を活用しながら悪戦苦闘していた日々について。 後半は難聴を取り巻く様々な話題。補聴器のコストの話から難聴の治療手段や再生医療の現状(2013年ごろ)についても解説している。
人工内耳の手術後のトレーニング(リハビリ)の話など実体験に基づいて執筆されている。また、さまざまな難聴者からのメッセージも各章の末尾に掲載されている。
難聴、要するに聴力の低下といかに向き合うか、聴力低下後の人生をどう生きるかのヒントの詰まった本。
原著のタイトルは、Shouting Won't Help。
感想
難聴にもいろいろあるけど、一番のポイントは「外からはわからない」という点。そしてだれも「なぜ」を説明してくれない。
補聴器や人工内耳では健康な人間の耳と同じような「聞こえ」はとりもどせない。 視力と違ってメガネやコンタクトレンズのようにはいかない*1。その点は普通の人はわからないし、誤解も多い。
難聴になった当人からすれば「どうして私(自分)が難聴難聴になったのか」という疑問がわいてくる。しかしだれも答えてくれず、容赦なく行動を求められる。
補聴器を使いながら日常生活を送るか、社会から離れるか。
医者は検査はしてくれるけど、めったに「何故」の説明はしてくれない。どこが悪いかの特定止まり。この本には医師への不満についての言及がないけど、個人的にはこの点は改善の余地があると思っている。
病気にしろ、障害にしろ、受け入れるのは難しい。というよりも人より劣っていることを認めることが難しい。
この本の著者は聴力低下を隠そうとして奮闘していたらしい。私も目の病気による視力低下を隠していたことがあるので気持ちはわかる。
私の場合は世間体というか陰口を叩かれるを恐れていた。「その年齢でその病気?」みたいに言われるのが怖かった。
翻訳本なので原著の出版からのタイムラグはあるけど、再生医療の話題は参考になった。20年から50年先には一度低下した聴力を取り戻せるようになるのかも。
特に有毛細胞という聴力にとって非常に重要な細胞の再生の研究は興味深いです。鳥類の場合に、有毛細胞が損傷してもほぼ完全に再生するという研究結果が紹介されています。一方、哺乳類では細胞の再生を抑制遺伝子が存在して有毛細胞の再生をブロックしているそうです。
再生医療の応用が軌道に乗るのは難しいみたいですが。
まとめ
他の難聴者の場合も含めて「聴力低下をいかに受け入れるか」について参考になる本。
残念ながら「なぜ私(自分)がこんな目に?」とか「なぜ聴力が低下しているのか?」といった医者が答えてくれない疑問についての答えはない。
難聴になった人でなく、その家族などの周囲の人にも参考になると思います。
冒頭部に耳の聞こえにくくなった人との生活のヒントが紹介されているのでその部分だけでも有意義かと。
*1:健康な人の話。緑内障による視野の欠損はそもそも補えませんし、白内障の場合は一定以上の視力は出ません。