知識のブラックホール

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アメリカにおける地域格差と教育格差について(書評:『年収は住むところで決まる』)

前から気になっていた本です。図書館で借りて読みました。

概要

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

サブタイトルは「雇用とイノベーションの都市経済学」。内容は統計データによる産業の発展と、都市の経済への影響。

経済的に発展する地域と衰退する地域、一体何が違うのかを産業の移転や労働者の経歴など、様々な観点から分析している本です。

335ページと普通のビジネス書よりやや分厚いですが、意外とすんなり読めました。

ざっくりポイントをまとめておきます。

  • 貧しい都市圏で働く大卒労働者よりも、経済的に豊かな都市圏の高卒労働者のほうが給料が良い(生活コストが高いので)
  • 大学の有無だけではその都市圏の経済発展にはつながらない
  • 補助金による特定産業への支援は成果が出にくいが、研究開発への援助は成果をあげている
  • 地域格差だけでなく、高卒と大卒の格差(=下流中流の格差)
  • 高校中退率、大学進学率の地域格差
  • 移民の受け入れは移民の質を考慮しないといけない
  • 高度な技能を持った移民を連れてくるか、自国の若者を育成するか

アメリカの科学に関する投資が少ないという指摘は意外。アメリカの現在のレベルですら基礎科学への投資が少ないと主張している。

基本的な話は鶏と卵の関係になっているものが多い。

巻末の解説もなかなか秀逸です。

この本のポイント

とにかく格差問題。地域格差の問題だけではなく、高卒と大卒の格差問題について強調している。

巨額な資産を持つ富裕層とそれ以外の残りの人々の格差ではなく、中流層下流層の格差を指摘している本は珍しい。

工場のようなあまり給料の高くない仕事が増えるより給料の高い少数の雇用のほうが地域経済への影響が大きい、という主張は意外ではあるが納得できる。

あまりページ数は割かれておらず最後の章で言及しているだけだけど、グローバル化とローカル化が進んでいるという指摘も大きい。 要するに二極化。

イノベーションが狭い地域に集中していて、その原因として非公式な知識の伝播としている。

イノベーションの鍵は「人」。気軽に行き来できる距離というのが重要。

出願された特許の参照している特許が地理的に近い範囲のものだったり、一流の研究者と同じ建物で成果が出やすいとか、環境の問題を提示している。

イノベーションと環境の問題はイノベーション関係の本でも言及されている。

イノベーション 破壊と共鳴

イノベーション 破壊と共鳴

本書の内容を日本に置き換えるとどうなるかと考えてみると東京一極集中もやむを得ないのかなと思います。同時にリモートワークを旗印に掲げてIT企業のサテライトオフィス誘致に躍起になっている 地方自治体についてはちょっと方針がズレていないかと少々心配です。

私の理解としてはただの東京のIT企業の下請けという形ではほとんど経済効果は期待できないでしょう。

IターンやUターン就職で多少の労働者を呼び込んでも焼け石に水です。インドなどのオフショアについては優秀なIT技術者が 多数集まっているという点がポイントのはず。

なんとかしようという試みは評価しますけど。

意外だった話

その他多数。

アメリカ企業の創業の地や移転の履歴は調べてみると面白いかも。

まとめ

都市の繁栄と国の繁栄についての産業からみた関係を考察していて面白いです。

特定産業への優遇の仕方、産業政策についての考えが大きく変化しました。

ますますどこに住めばいいのかわからなくなってしまった。正社員として働くなら収入面ではまちがいなく東京。

理想はシリコンバレーなみの給料を、生活費の安くて気候の穏やかな土地に住みながら受け取る生活だと思いました。

以上です。

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