知識のブラックホール

知識収集活動全般。

もらう意識から稼ぐ意識へ(書評:『稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則』)

賑わい創出だの、地域振興あるいは地方の活性化と騒がしい今日この頃。 別に行政に関連しているわけでもないですが、気になったので読んでみました。タイトルは『 稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則 (NHK出版新書)

著者の木下斉氏はかつて「IT革命」流行語大賞を受賞したとか。本人が言い出したわけでも無いらしいが、ITを活用する若者の代表みたいなよくわからない理由で受賞したそうな。

一通り読んだうえでの一番の感想は、斎藤一人さんの著作と共通点があるなあ、というもの。 「小さく始める」とか「覚悟」とか「楽しく」というキーワードは斎藤一人さんの講演の頻出キーワード。

一番の要点は意識の問題。具体的に言うと「補助金をいかにたくさんもらう」から「稼ぐ」へ。当事者意識を持つ、ターゲット顧客を絞り込む。そして何よりも、 補助金よりも規制緩和・制度変更。 もう一点は、営業の重要性かな。営業してからものを作るという発想。買い手が決まってれば自信を持って商品を作れるし、誰も欲しがらないような商品にはならない可能性が高い。

今の日本の地方振興の一番の問題は、誰が受益者で、誰が主体的に動くべきなのかが欠けているのではないか。 本書の著者の主張から行くと、地方振興で得をするのは、不動産の所有者。主体的に動くべきなのも不動産の所有者。 アメリカの事例が紹介されているけど、地域の魅力が増すことによって所有する不動産の価値が上がるという考え方。

日本の場合、どうも不動産の所有者に土地を活用しようという意識が乏しいのだとか。本書によると地方の衰退の象徴たるシャッター通り、実はオーナーは大して困っていないらしい。 更地にするよりはシャッター商店街でも建物さえ立てたままなら税制的には問題ないようだし(今のところは)*1

面白いと思った文章

戦争を経験した世代の経営者から。

「息子たちの世代はすぐにリスクリスクっていうけど、俺らの時は死ぬこと以外をリスクなんて考えたことは無かった」 (「おわりに」より)

まあ、仰せの通りで。

世代論として

「稼ぐ」とか「利益率」というキーワードは堀江氏を連想させるところがある。また人の覚悟(熱意)とか先回り営業も具体的な顧客をイメージするという意味で行くと「顔の見える人を意識してサービスを作る」というペパボの家入一真氏の主張と相通じるところがある。発想が近いのか。割と世代が近い分、何か共通項があるのか。

読んでいて思い出したこと

昔の上司のセリフを思い出した。

「しんどいことをするからお金が貰える」

楽な商売はない。楽しい商売はあるかもしれないけど。

まとめ

「序章」と「おわりに」だけでも一読の価値はあるかと思う。 こういう「稼ぐ」とか「利益」というキーワードと地方再生のような公共性の高いキーワードがセットになった本が出版されるということ自体、いいことではないだろうか。 「お金儲けは卑しいこと」という固定観念が少しずつ崩れているのかと思う。

追記

一過性の地域振興策ではなく、「リピーター確保」が大事ではないか。これもまさに斎藤一人さんの話によく出てくる話。 また会おう、また来よう、また食べよう、また利用しよう…という「また」の話。魅力の話。

関連URL

topics.nhk-book.co.jp 本書で紹介されてる事例に関連する団体のURL。

関連本

読むだけでどんどん豊かになるお金儲けセラピー

読むだけでどんどん豊かになるお金儲けセラピー

斎藤一人の道は開ける (PHP文庫)

斎藤一人の道は開ける (PHP文庫)

[オーディオブックCD] 斎藤一人の道は開ける (<CD>)

[オーディオブックCD] 斎藤一人の道は開ける ()

  • 作者: 現代書林,永松茂久
  • 出版社/メーカー: でじじ発行/パンローリング発売
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: CD
  • クリック: 2回
  • この商品を含むブログを見る

*1:空き家対策として税制改革でなんとかするつもりのようだけど

最近のKindleぶり

まあ、あれですよ。月替わりセールというものがあってですね。読書の秋という大義名分がありますからね。 Amazonギフト券というセーフガード(?)のおかげでどうにか自制していますが、便利すぎて危険ですね。

www.amazon.co.jp

最近のお買い上げ

¥323円で購入。iPod touchKindleアプリでバス待ちとか病院の待ち時間にコツコツ英語のお勉強。


¥348円。 いまいち。原因不明の体調不良とかの人は読んでみると良いかも。


卵は最高のアンチエイジングフード

卵は最高のアンチエイジングフード

¥ 499円。健康本かと思ったら卵料理のレシピ本。卵に対するよくある誤解への回答もいろいろと書いてある。定価ではともかくセール価格ならコスパは良い。


別のセールなんでしょうか。なんか¥1,089円で購入。これは良い本残念ながら今値上がり中。 Kindleで技術書を買うのは抵抗感があるわけですが、この書籍は固定レイアウトではないのでセーフ。

現在つまみ読み中。


別にセールじゃないけど面白いと聞いたので。定価で購入。 結局4巻まで一気買い。

まとめ買い(Kindle)はこっち。

所感

電子書籍とはいえ価格の変動が激しくて、まるで飛行機のチケットみたいな状況ですね。隣の座席の人と自分のチケット代金が数倍とかいう笑い話。

買い時を逃すとせっかくの良書を手にしたはずが損した気分になるという。値引き販売しないAppleのスタイルの方が、買う側にとってはいいのかもしれないと思う今日この頃。


とかまあこんなです。それではまた。

実は日本お高齢者の生活水準は高い…(書評:『マーケティングに使える「家計調査」』)

紙媒体のほうを買った後にKindle版発売という悲しい状況。買ってから1ヶ月以上経ってますが、なんだかんだでようやく読了。

まあそういうコトもありますが、どうせ出すなら同時にリリースしていただきたい。

総務省が実施している「家計調査」のデータをもとに色々と考察をしている本。学校教育の話から都道府県別の傾向まで。

本の概要

第1部がいくつかの具体例を挙げて従来の消費・経済理論の不備をデータ分析結果から指摘するという内容。 第2部は都道府県別の消費傾向(食品)の解説。

第一部で解説されているのは、概ね以下のような内容(各章のタイトルではないです)。

  1. 秋田の小学校教育 と教育コスト、進路への波及効果
  2. 高所得層への売り込みに成功している品目の分析(コーヒーより紅茶)
  3. 冬服バーゲンと消費の実態
  4. 生活水準とエンゲル係数の誤解
  5. 食パンの価格と消費量など消費量と購入価格の分析
続きを読む

四則演算から心理学へ 書評:『良い値決め 悪い値決め ——きちんと儲けるためのプライシング戦略』

ずいぶん間が空きましたが、今回のお題はこれ。 某社のCTOさんのブログで紹介されていた本です。

いつも通り、章のタイトルなどの二重カッコは引用です。

面白い・興味深いと思ったところ

以下、各章で面白い・興味深いと思ったところを抜き書きしています。 電子書籍につき、ページ番号は無意味なので省略します。

第1章

「世の中は単純であるほうがいいが、過度な単純化はよくない」 by アインシュタイン

45度線分析(損益分岐点の図)への批判。要は単純化しすぎ、らしい。これはまさに四則演算世界ですね。それも引き算と割り算の世界。 著者のいうように、「儲けは一個の儲けの積み重ね」。これは掛け算と足し算かな。 言い換えると、一回の取引あたりの利益の積み重ね。

結局のところ、日本は四則演算の国なんですよね。

微分積分とか、確率統計が絡むとダメダメ。

何かの本で読んだのか聞いたのか、忘れましたけど、日本のマスコミは応用数学が苦手というのがあったような気がします。

時事刻々と変化する販売価格と原価・販管費。四則演算では表現できませんよ。 確率統計なしで市場規模や今後の売上予測を立てるつもりかと。


予算というなの売上目標…これはいやですね。

恐ろしいと思ったのは以下のくだり…

「企業が躓くのは、正しい問いに間違った答えを出すからではなく、間違った問いに正しく答えるからである」

イノベーションのジレンマを彷彿とさせますね。

第2章 『ドッグ(DOG)ビジネスは「無料」に向かう』

読んでいてインターネットは貧乏神、という話を思い出した。一番素晴らしいと思ったのはピカソの逸話。

ある夫人の依頼でスケッチを描いたピカソ(所要時間3分間)。価格を訪ねる夫人に価格を告げると 当然、「たった3分描いただけで?」という反応。

対するピカソの答えは…。

「いいえ、私はここまで来るのに、一生を費やしています」


いや、素晴らしいですね。日本人は謙虚を美徳という前に、こういう自信とういか、覚悟を決めなければ。

第3章 『値下げが成功する場合、失敗する場合 』

この章の要点

  • 商品1個当たりの固定費については後で考える
  • 商品1個当たりの価格(変数)と、商品1個当たりの変動費に着目する
  • (商品1個当たりの利益(M)×販売量(P))が固定費(F)より大きくなる状態を創り出す
  • 値下げ分をカバーするだけの売上を確保するのは容易ではない

仕入れ量の増加による「商品1個当たりの変動費」の変化が考慮されていない?

第4章 『そろそろ「値決めの哲学」を持とうじゃないか!』

値下げを阻む壁

  1. 自らのキャパシティの限界
  2. ライバルの値下げ追随
  3. 顧客の消費感情

バリュー・プライシング式

売価 − 利益 = コスト

顧客がどれだけの価値を認めてくれるかに着目する。

そういえば何かの本に「価格は高ければ高いほどいい」みたいな話があったな。

伝家の宝刀?

予算不足その他を理由に値下げを迫られたら…

「こちら少ない時間で運営しており、高額をいただかないとお伺いできません」

素晴らしい。

第5章 『顧客満足「高」価格をつくる「まぜプラ」』

ビジネスモデルの転換とか。キーワードは「また来よう、また買おう」かな。 ジレットの話など、消耗品モデルから、フリーミアムではない2着目無料の無料モデル、そしてオンラインとオフラインの相乗効果への変遷。

第6章 『顧客に心地良いサプライズをつくる「ここプラ」

定価の半額で商品を3個売る場合よりも、「3個買えば1個無料」のほうが利益は大。 顧客への訴求力も大。

モノは言いよう

悪い例:『英語力が不足する』

良い例:『日本語が得意です』

英語を無理に勉強するより、漢検とか日本語検定の1級を取得して、日本語力をアピールするほうがいいかも知れない。

第7章 『トップセールスに学ぶ、比べさせて売る「売る」』

有名な松・竹・梅。これは世間体と損したくないという心理をつくプライシング。

最初に低価格だと、あとから値上げするのは困難。そこで定価は高めにし、キャンペーンなどの口実で最初だけ値引きする。

アンカリング

最初は相手に不利な条件を提示して、後から相手に有利な条件を示す。

返報性

意図的に高めの価格を提示して、妥協するふりをして本来意図した価格を提示する。 相手が妥協したから自分も妥協せざるを得ないという心理を利用する。

ハンター×ハンターという漫画に、わざと不合理な要求を突きつけて妥協を引き出すってのがありましたね。チンピラの手口。

第8章 『顧客の困りごと、悩み、不満を和らげて2.5倍売る「やわプラ」』

顧客への共感の大切さ。ほんの一言、添えるだけで印象が変わる。事務的で冷たい印象を持たれるか、そうでないかで次に繋がるかが決まる。

問題解決が得意なエリート・コンサルタントの男性には離婚が多いのです(おっと、バラしちまったぜ)。

原文ママです。おいおい…。

気になったこと

人工知能は?

アナログの優位性を謳ってはいるけれど…。人工知能の進化を計算に入れてないのかな? というところが気になる。

「気が効くねぇ」をディジタル化できるか

いくら顧客の誕生日や住所を把握しても、果たして「気が効く」というのを デジタル化できるかだろうか?

そのあたりが著者がアナログを押す理由かな。

デジタル化で思いやり、気配りが消えていくのかな。

まとめ

顧客心理だけでなく、値決めをする側の心理(=メンタルブロック)の問題がかなり大きいのかなという印象。

生兵法は怪我のもと、とはいうけれど実践的なプライシングや価格交渉のノウハウがたくさん詰まっている。 フリーランスから経営者まで、非常に良い本だと思う。

ではでは。

敷かれたレールに挑戦する?(書評:ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか)

Kindleのポイント還元でまたポチッといってしまいました。今回紹介するのは「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」です。

著者について

PayPal の創業者、ピーター・ティール氏の書いた起業のヒント本です。というか、いわゆるエリートコースへの挑戦乗でしょうか。

正直なところ、ときどき(止むを得ず)PayPalを利用することはありますが、どういう人間が立ち上げたのかということには無関心でした。 意外なことに法曹界を目指しながらも挫折して起業家になったそうで。

高校時代に爆弾を自作したとかどうか書いてあるので、根っこの部分でテクノロジーオタク的なところがあったのか。

面白いと思ったところ

世界的に成功した起業家の思考パターンを垣間見ることができるというのは貴重です。IT系の起業家、プログラマで有名な方というのは結構な確率でSFに影響されているようで。

本書の著者の場合はSFに登場する電子送金に影響を受けたとか。 日本の経営者とは完全にスケールが違いまよね、そもそもSFに影響を受けて起業して。その上で世界を変えてやろうというノリは日本ではまず無さそう。子供のような発想でありつつも、スケールが大きいというのがアメリカのすごいところ。

PayPalの創業者の考え方は日本のIT関係者だとペパボの家入氏が近いのかな、という印象。 採用についてとか、プロダクトはどうあるべきかという点についてだけで、人間としてはもちろん別です。

機械と人間について

私が一番面白いと思ったのは機械と人間の関係に対する著者の考え方。

(前略) どちらの側も、より能力の高いコンピュータが人間の労働力に置き換わるという前提を疑っていない。だけどその前提は間違っている。——— コンピュータは人間を補完するものであって、人間に替わるものじゃない。 これから数十年の間に最も価値ある企業を創るのは、人間をお払い箱にするのではなく、人間に力を与えようとする起業家だろう。

Googleに代表されるようなIT系企業の技術者、経営者はコンピュータを全能であると捉えがちな気がしますが、この著者はそうでないようです。 人間を補完するものという考え方は新鮮。

確かに新しいイノベーションの普及に際して、人間という既得権益者を排除しようというとすれば反発は必至でしょうし。 誰かを攻撃するような宣伝は場合によっては人を不快にする可能性があるわけで、誰かを傷つけない、不安にさせないような宣伝の仕方が重要なのかもしれません。

ことさらにコンピュータの優位や技術の素晴らしさを強調するだけだと失業の不安や社会への悪影響を懸念する声が高まるのは確実でしょう。 その点、この本の著者のスタンスは面白い。

人間と機械が全く違うということは、コンピュータと手を組めば、人間と取引するよりもはるかに多くの利得があるということだ。

ありがちな機械(コンピュータ)が人間の仕事を奪うという考え方とは違う発想。 コンピュータ恐怖論者に読んでほしいですね。

営業の重要性

ずいぶんとしつこく作れば売れると思うなよ、と警鐘を鳴らしています。たしか未来工業の社長さんの本にも似たようなことが書いてあったような気がします。中小企業こそ営業が重要だ、とか。

ただし、目先のノルマのために非道を働くような営業は「セールスマン」としてこきおろしています。同時に営業を軽んじる技術オタクもこきおろしていますが……。

演技と同じで、売り込みだとわからないのが一流のセールスだ。 営業にしろマーケティングにしろ宣伝広告にしろ、販売にかかわるほとんどの人肩書きが、「営業」と無縁なのはそういう理由だ。

なかなか面白いですね。訪問販売や飛び込み営業とくれば警戒するのは当然ですから、そういう露骨でない営業というのは盲点です。 例えば携帯電はにしても、テレビCMや雑誌、ネットから情報を得ているわけで、そういう宣伝こそ営業、ですね。

そういう意味では一般消費者には営業という言葉は死語で広報だのマーケティングだのといった、イメージ戦略が大事なんでしょう。

商品の販売価格に応じてアプローチを変えるべしとも書いてあります。

あとはおまけ。

マスコミを信用しないおたくたちはマスコミを無視しがちだけれど、それは間違いだ。

へいへい。

べき乗則について

度々「べき乗則」という単語が登場します。結局のところ、有名なランチェスターの第二法則のことでしょう。。一対一ではなく、状況に応じて一つの施策が何倍もの効果が産むようなものを活用しろ、と。IT系サービスの世界でいうネットワーク効果とか。

また、最初に小さな市場で熱烈なファンを獲得しろという著者の主張もランチェスター的です。こちらは第一法則、つまり武器性能と兵力の多寡が勝敗を決するという理論。

ランチェスターの法則 - Wikipedia

ランチェスター戦略については「三国志で学ぶランチェスターの法則」がオススメです。三国志をと絡めて各種の戦略論を紹介している本です。

残念なところ

翻訳者よりも日本語版序文を書いたコンサルタント崩れの名前がアピールされていて幻滅です。 巻末の著者プロフィールに日本語版の序文を書いただけ、の人間のプロフィールを書く必要など存在しないはずです。

Amazon.co.jpのレビューにある通り、日本語版序文は読み飛ばして問題ないです*1。マーケティングだろうと広告宣伝でか知りませんけどね。 私自身、この序文を書いた方の著書は有益であると思いますしが、変なところにしゃしゃり出てドヤ顔しないでいただきたい。

まとめ

なんというか逆張り、常識の逆をいくという感じの内容の本です。ただの天邪鬼でもなければ技術オタクでもない。一般的な「おたく」がやりがちな失敗を上手く回避したというのが著者の成功の一番の要因に思われます。

うまく流行のトレンドを掴みつつも踊らされないという点でさすがにシリコンバレーの投資家だよなあ、というのが一番の感想です。

読み物としても面白いですが、企業のみならず株式投資へのヒントとしても参考になると思います。


ではでは。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

三国志で学ぶランチェスターの法則

三国志で学ぶランチェスターの法則

*1:商業主義に加担するという点で序文を書いたご本人のイメージダウンでは?

広告