知識のブラックホール

知識収集活動全般。

かつての時代の寵児の一代記(書評:『わが闘争』 by 堀江貴文)

Amazonの割引キャンペーンにコロッとやられて一気読みしてしまいました。

堀江本は4冊目ですね。

紙の書籍の3分の1の価格までディスカウントされていたもので。
実は売れてないのかな、コレ。

内容をざっくりいうと、過去の書籍の生い立ち部分を詳細化+オン・ザ・エッヂ創業から逮捕・服役・社会復帰あたりまでの自叙伝。 アニメでいうと総集編を映画化したような感じ。

別にホリエモンマニアって訳ではないので、今まで文章化されていなかった内容をどれぐらい含んでいるかはちょっと判断できない。

とは言ってもただの事実の列挙ではなく、当時何を考えていたかという点に重点が置かれているという印象。

近鉄買収騒動あたりからのリアルタイム世代としてはかなり面白かった。ホリエモンこと堀江貴文氏といえばlivedoorであるが、 それ以前からの社名であるオン・ザ・エッヂと言う名前。実は昔、アスキーからでていたLinuxマガジン(Linux Magazine)にもちょろっと社名が出ているのをみた覚えがある。

根拠のない自信

基本的にはホリエモンの反骨精神あふれる自伝であるが、印象に残ったのは次のフレーズ。

中学高校と勉強していなかった堀江氏、高校3年、東大受験を決意すると…

難しいことなんてなにもない。集中力さえあればできる。僕のポテンシャルは決して低くないのだから。(第二章 パソコンと思春期:実家を脱出するには東大に行くしかない)

会社創業時も…

どんな会社だって、誰かが起業するところから始まったのだ。 僕にできないわけがない。 (中略) やれる。ぼくはきっとやれる。(第五章 新米社長:見よう見まねの事業計画書)

自分の能力を信じて疑わないというか、根拠のない自信。ではあるんだけど、終始一貫、これがブレない。結局これに尽きるように思う。 「明日から本気出す」とか「勉強したら負けだと思っている」なんていいながらただダラダラし続けて終わるかどうかの境界はこの辺りにあるのではないか。


改めてホリエモンの幼少期について読んでみると、どこにでもいそうな田舎の子供に思える。学校および家庭の両方で、かなりの不合理な仕打ちを経験しているように読める。逆に言うと、不合理な体験の数々を経験したからこそ、あの際立った合理主義思考に行き着いたのかと思うと興味深い。

ニッポン放送買収事件

良くも悪くもホリエモンの知名度を一気に高めたあの事件。当時は毎日、夕方のニュースで一進一退の攻防をワクワクしながら見ていましたが…。 当事者である堀江氏側の目論見をあれから約10年経って知るというのは感慨深いですね。

テレビ局を買収してどうするの?テレビにlivedoorのURLを表示してもそれほど変化はないんじゃないか?と思いなが見ていました。 フジテレビと和解(?)したときの、あのホリエモン猫なで声の記者会見も印象的でしたが。

SBIの北尾氏の記者会見の、自分の頭を指差してくるくると指を回すホワイトナイト宣言とかね。

さて、本書のホリエモン側の言い分を読んでみた感想。まあなるほどね、という感じでしょうか。 どうやらテレビ局の将来性を完全に見限った上で、広告媒体としての価値だけを見たうえでの買収だった様子。 Yahooに対するポータルサイトとしてのlivedoorの知名度向上を図るうえで、テレビという媒体を使おう、斜陽産業になることが確実であろうテレビ局とはいえ、あと数年は役に立つという計算。

当時としてはちょっと先をみすぎていないか、テレビの将来性について悲観しすぎでは?という気もします。数年前からテレビ自体を所有していない私としては、まあ外れてもいないのか、とも思えなくはないです。ただ、ラジオが未だに存続しているように、テレビ局自体が消滅するかといえば、それはないでしょう。

今となっては目的の割には大きすぎる博打ではなかったかと思います。経営者としての慢心もあったのかな?

ライブドア事件、そして

あと印象的だったのは人材採用。基本的に知り合いのつて、つまりコネ採用と大学の掲示板が中心だったようです。あまり新卒一括採用みたいなことをやる以前にコケた感じですが…。 問題は件の宮内氏でしょうか。

livedoor本社への強制捜査後に横領が発覚したとかいう宮内氏ですが、度々事後承諾で物事を進めていたり、かなり問題あったように書かれています。学歴詐称やら何やら、きな臭さ抜群…。ワタミ渡辺美樹氏も外部から招聘した経理担当と揉めたとか著書に書いていたように思いますが、経営者にとっては財務・経理を任せる腹心の部下をどれだけ信用できるかがキーポイントなんですかね。人を見る目の重要性。

まとめ

最後はいつもどおり宇宙開発云々といういつもの夢物語でおしまい。前回の『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』がどちらかというと人生論だったのに対し、こちらは自叙伝、要するに前半生をまとめた自伝ですね。恥ずかしいエピソードの含有率はこちらの方が多めです。

娯楽として、または堀江氏個人への興味という観点から言えばこちらがオススメかと思われます。


それではまた。

『嫌われる勇気』とホリエモン その2

ちょっと書きそびれたことがあるのでその2

audiobook.hatenablog.com

あくまでも本人の著作を性善説にもとづいて読んだ上での感想です。

アドラー心理学の実践者としてのホリエモン

世間的には目立ちたがり屋、つまり承認欲求の権化のように思われているホリエモンであるが、実際どうなんだろう。

少なくとも少年期については「退屈な田舎」から抜け出したい、という思いが行動原理のひとつであったように見える。 もう一つは遊びへの熱中。

個人的な解釈としては、収監前については会社のイメージ戦略としてメディア露出を意図的に増やしていたと思っている。 服役後については、収監前に築いた知名度を(生活費を得るために)活用しているのかな、という認識。

承認欲求を満たす、という側面だけであれば、youtubeで動画を垂れながしていれば十分で、何も会社経営にまで関わる必要はないだろうし。堀江氏の「はたらきたい」というのはアドラー心理学でいうところの「他者貢献」なんではなかろうか。 アドラー心理学においては、例えば親の財産を食いつぶすドラ息子、寝たきり老人でも世界の役に立っている、と考えるらしい。

なので、金銭という見返りのためであっても自分の外との関わりがあれば何でも「他者貢献」になるはず。 堀江氏の場合は、承認欲求がメインではなく、他者との関わりをもとめて「はたらきたい」という意思がでているのではないか。

『嫌われる勇気』などのアドラー心理学関連本を読まれていないとさっぱりだと思うが、中途半端な説明はかえってマズいと思うのでGoogles先生にお尋ねいただきたい。

結局、ホリエモンは何を成し遂げたのか?

livedoorのサービスで認知度が高く、存続しているのはRSSリーダーLivedoor Reader、現在はLive Dowango Reader:LDR)と、livedoor Blogというブログサービスだと思われる。

どちらも画期的という感じはあまりない。球団買収やニッポン放送株の取得など世間をおおいに騒がせたホリエモンであるが、特にこれといったプロダクトは残していないといってもよさそう。

具体的なプロダクトは残さなかったが、少なくとも世の中の空気を変えたのは確かだと思う。200X年代ののベンチャーブーム、企業買収とその対策の必要性など社会へのインパクトは大きかったと思っている。「空気を読む」ことが美徳とされる日本社会で、世間の空気を書き換えて見せたことは大きいと思う。

なぜあんなに反感を買うような振る舞いをしていたのか?

いわゆるライブドア事件以前の、ホリエモンの言行について、当時はなんとなく違和感があった。 私の違和感は大きく以下の二つ。

  • わざわざ世間(中高年)の反感を買うような振る舞い
  • 『「時価総額世界一」を目指す』という(当時の)目標設定

最近の堀江貴文の言行については、テレビを保有していないのでネットや書籍でしか知らない。それにしてもライブドア事件以前の彼はなぜあのような「わざわざ他人の反感を買うような振る舞い」をしていたのか?

そしてもう一つ『「時価総額世界一」を目指す』というもの。定量的に評価できるものなら売上高でも利益でも利益率でも問題はないはず。

一つ目の違和感について。これは『ゼロ』を読んだ印象として、世間の印象より不器用でナイーブだったんでしょう。織田信長が「うつけ」のフリをしたのと同じようなものかと思えなくもないが、結果として悪影響が顕著なのでそれはなさそう。少なくとも他人の目を気にするジコチューではなかった様子。

結果さえ出せば文句は言われないでしょ、というどこか子供っぽい考えがあったんだろうと思う。この発想は結構プログラマに多いし、自分もこれはよくわかる。形式ばかり気にするお役所仕事や権威主義へのアンチテーゼ。もしくは一種の強がりか。

二つ目の違和感について。
当時はなぜ時価総額なのか疑問だった。定量的に評価できるものなら業績を直接反映するものでなく、市場シェアとか顧客満足度とかでも良かったはず。わざわざ純利益や利益率を使わなかったところに何か負い目があったのかとも考えられなくはない。

企業の社会的イメージ、ようするに風評による影響の大きい時価総額を目標にしてどうすんの?と思ったものだ。

個人の想像に過ぎないが、会社の業績そのものはともかく、状況に至るプロセス、つまり、理屈の通じない両親に対して、中学受験や東大合格という実績で親の反対を抑え込んだ経験が原点ではないだろうか。他の業界の企業と比較するとき、業界ごとに利益率というのはおおまかな相場があるので一概には比較できない。また売上高では企業に規模の面で不利だと考えたのか。はっきり言えば「僕の会社はトヨタよりスゴイんだ!!」と言いたかったのかな。

ライブドア事件以前の堀江氏にとって、企業としてナンバーワンであることを示すわかりやすい指標が時価総額だったのだと思われる。

時価総額という指標を選んだことについて、虚栄心か、あるいはなんらかの嘘が含まれているのかも知れない。その辺りが逮捕・有罪判決・収監へと繋がったんじゃないかと思う。極端なことを言えば、斎藤一人さんのように、「納税日本一」を目指していれば会社の向かう方向も違っただろうし、逮捕されるような事態までには至らなかったと思う。

少なくとも良かれ悪しかれ日本の若者に影響を与えたのは間違いない。

それではこんなところで。

嫌われる勇気

嫌われる勇気

『嫌われる勇気』とホリエモン(書評:『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』)

堀江氏の書籍は3冊目。たしか『稼ぐが勝ち?ゼロから100億、ボクのやり方? 知恵の森文庫 (光文社知恵の森文庫)」と『100億稼ぐ超メール術 1日5000通メールを処理する私のデジタル仕事術』だったかな。今回のお題はこれ。毎度のごとく長文です。

なぜ今更この本かというと、twitterだかyoutube経由で昨年話題になった『嫌われる勇気』と内容に共通点があるという話を目にしたので読んでみました。

私は世代的にいうといわゆるハチロク世代(1986年前後生まれの世代)。ホリエモンこと堀江氏はその上のナナロク世代(1976年前後生まれの世代)のちょっと上。一斉を風靡したIT企業経営者の著書は何冊か読んでいますが、一番親近感を覚えるのは堀江氏です。

以前の勢いはありませんが、サイバーエージェントの藤田氏、楽天の三木谷氏、元livedoorの堀江氏の三人の中で誰の下で働きたいか?、と聞かれたら堀江氏と答えるでしょう。

何故か?

この三者のうち堀江氏だけが自分でプログラムを書いてお金を稼いだ経験のある人間だからです。良くも悪くも合理的な堀江氏ですが、部下として働く側としては、不合理な規則や理不尽な仕打ちよりは合理的であるほうがありがたい。

例えば社員の仕事用のPCを会社から一定金額を補助したうえで自分で購入させる(選ばせる)という施策など、パソコン好きの技術者として納得いくものがあります。

容姿はともかく、技術系の人間とまともに話ができるというのは大きい。

なんだかんだ言っても犯罪者じゃないか、と言われるかもわかりませんが、実刑判決を受けた方で本を書いている方は結構いますし。少なくとも殺人犯ではないし。

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『「ビジネスゲーム」から自由になる法』という本を流し読みしました

知人の勧めで読んでみましたが、よくわかりませんでした。

ビジネスゲームから自由になる法

ビジネスゲームから自由になる法

一言で感想を言うなら、

裸の王様

でしょうか。全然理解できませんでした。 一つ間違うと、厨二病患者ジェネレーターになりかねません。

著者はただのホラ吹きなのか、偉大なる心理の伝道者なのでしょうか。私には判断しかねます。

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やっぱり大事なのはバランス感覚(書評:『考える腸 ダマされる脳』)

以前に紹介した『脳はバカ、腸はかしこい』と同じく藤田先生による腸内細菌エッセイです。前著の書評は以下。

audiobook.hatenablog.com

前著が2012年、今回紹介する本は2013年発行です。

大まかな内容の紹介

  • 1〜3章:概ね過去のエッセイ本と同じ内容
  • 4章:腸内細菌を増やすための食事について
  • 5章:運動や呼吸法など腸を鍛えるヒントあれこれ

ざっくり書くとこんな感じ。

気になったところ・印象に残ったところ

乳酸菌やビフィズス菌を摂取すれば善玉菌が増え、腸内環境は間違いなく良化します。それはそれでいいことなのですが、強引に善玉菌だけを増やし続け、悪玉菌を根こそぎ死滅させたりしたら、腸内環境はかえって悪化してしまいます。なぜならば、悪玉菌にもそれ内の存在理由があるからで、腸にとって有益な部分もあるのです。

悪玉菌の代表格、大腸菌にもビタミンを合成するなど有益な働きがあるらしい。何でもかんでもやりすぎる、極端に走るのが日本人の悪い癖、というのが著者の見解。いやはやお説ごもっとも。大腸菌というのは完全な悪者ではなかったんですね。というか善玉・悪玉という名前がちょっと単純化しすぎているのかもしれません。

黒住教の教祖、黒住宗忠の「この世に捨つるものなし」というのを連想させますね。

腐敗菌を根こそぎ殺すような添加物が、腸内細菌も殺すことは十分に考えられるのです。

ソルビン酸の殺菌力は極めて強力だという研究結果も紹介されています。できるだけ自炊したいですね。いやホントに。

腸内環境がよくなればセロトニンドーパミンといった「幸せ物質」も増えるのですから、祖父母世代の表情が柔和で幸せそうだったことに納得がいきます。
こういう幸せを作っていた基本は食生活にあるのですが、その食生活の根幹を成しているのが野菜などの食物繊維の多い食材です。(pp.137-138)

日本の伝統食のおかげで質素な食事でも当時の人々は健康で幸福だったらしい。確かに明治時代あたりの農村の写真をみると表情が穏やかにみえる気がする。偏見になってしまうけど、欧米の人々の顔つきがどこか険しいのは食文化から来ているのか。 この理屈でいくと、非行に走る少年も栄養不足というより食物繊維の不足という解釈も成り立つように思える。

近年、アルツハイマー病や認知症の原因究明や治療法に関する研究が進んでいますが、私は腸内環境を良化すればかなりの認知症は予防できると考えています。(p.142)

ぜひ頑張って研究を進めていただきたい。

だだし、いくら野菜や海藻などが腸にいいからといって、「野菜偏重」になってしまうのはおすすめできません。
世の中には、病気を治そう、健康な体になろうと人一倍頑張り、食事にも細心の注意を払う人がたくさんいます。 それはもちろん悪いことではないのですが、その執着心が強くなり、神経質になりすぎると逆効果を招きかねません。(p.145)

以前の私がまさにコレです。フィンランド症候群にも通じるものがあります。健康に気を使う人ほど病気になる、という話を見事に説明しているのではないでしょうか。

食べることの目的には健康で丈夫な体を作ることがりますが、それと同じくらい大きな目的に「楽しみ」があるはずです。(p.146)

いい文章です。この「ゆるさ」が著者の真骨頂です。前著の感想にも書きましたが、マクロビオティック系の修行僧のような厳しさでもなく、かといって野放図な暴飲暴食をすすめる訳でもない。このバランス感覚が他の健康法の書籍とは一線を画すように思います。

その他

  • ファイトケミカルの摂取には野菜スープがおすすめ
  • 水溶性の食物繊維は発酵しやすく、ビフィズス菌などの善玉菌を増やす
  • 不溶性の食物繊維は、善玉菌をあまり増やさないが、腸内のカスや最近の死骸を排出するのに役立つ
  • 運動は「ほどほど」+「ちょっときつめ」が理想的
  • 作り笑いでも免疫力向上に寄与する

まとめ

以前に紹介した『脳はバカ、腸はかしこい』に比べると、腸内細菌を増やす食事のレシピの紹介などより実践的な内容に重点が置かれているようです。出版社がことなることもあり、ページを開くと雰囲気が違いますが、内容的にはかなりの重複があります。 子供の英才教育や腸内細菌とメンタルへの影響に興味があるなら前著。どちらか迷うなら発行年の新しい本書だけ読めば、著者の考えはほとんど理解できると思います。

難点を挙げるとすると、Kindle版がないこと、表紙のデザインがちょっと淡白かな。

それではまた。

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