知識のブラックホール

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現代社会にはびこる欺瞞にだまされないために(書評:『みんなちがって、みんなダメ』)

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概要

みんなちがって、みんなダメ

みんなちがって、みんなダメ

表紙に惹かれて購入。勝手な推測だけど表紙に少女イラストを持ってきているのは漫画版の『君たちはどう生きるか』の表紙に対するパロディ*1か何か(当てつけ?)。

『君たちはどう生きるか』の表紙のガリ勉っっぽいメガネ男子に女子高生っぽいイラストをぶつけるという発想は実に面白い。

イスラム法学者である中田 考氏にインタビューした内容を文章としてまとめ直したもの。第5章はインタビュー形式のまま掲載されている。

サブタイトルは「身の程を知る劇薬人生論」。帯の煽り文句は「『君たちはどう生きるか』を読むとバカになる!」。

「装画:堀泉インコ」とあるので表紙のイラストの担当はこの人

内容について

普通の人が幸福に暮らすにはどうするかというテーマ。同時に自由や平等といった現代の西洋思想をイスラーム*2思想の立場から批判している。

バカという単語が乱発されているので不快に思う人は注意が必要。関西の人はバカをアホに読み替えるべし。

まず、バカの定義から。中田氏の定義は「自分自身が思っている自分と、実際の自分自身のとがちがうことに無自覚である」というもの。

それに対して賢い人間の条件は以下の3つを知っていること。

  • 「何がしたいか」
  • 「何ができるか」
  • 「何をすべきか」

いずれも主語はは「自分」。バカというよりは自己啓発セミナーやきれい事に踊らされている凡人という理解が自然だと思った。バカ正直な秀才から世間知らずで騙されやすい人まで範囲は広い。

日本と西洋、イスラーム社会の3つの社会の価値観を比較して面白い。

平均レベルの人が自分が優秀だと錯覚して夢を見ると不幸になるというのが大意。

凡人が幸福に生きるにはどうするかという答えは第5章。

なお、結論は「身の程を知れ」。奇しくも天下取りの秘訣を問われたときの徳川家康の答えと同じ*3

面白いと思った指摘・記述

  • 民主主義の実態は制限選挙寡頭制
  • 自由や平等は幻想であり(目指すべき)理想
  • 「人間は平等」というスローガンの裏には文明人に限るという前提が隠れている
  • 議論のスタートラインは中立な立場から(「テロは良くない」ではなく「テロとはなにか」から始める)
  • ビンラディンは欺瞞が許せなかった
  • ヨーロッパやアメリカの奴隷(slave)に対応する単語はアラビア語にはない
  • イスラーム社会の奴隷は神に対する奴隷
  • リベラリズムはバカを助長するシステム
  • 外見による差別は批判されるのに能力による差別は放置

世間一般にイスラム教自体への知識が根本的に不足しているのではないかと思う。

感想

これまでに読んだ宗教系の人間が書いた本の中では個人的に一番面白い。何より論理的で明快。

理系の人で文系中心の社会に疑問を感じている人は5章だけでも読むといい。なぜ文系の人間が社会を動かしているのかヒントが書いてある。

現状に不満があるけどどうしていいかわからないとか、建前だらけのきれい事にうんざりしている人におすすめ。

まとめ

「自分が何をなすべきか」、さっぱりわかっていないので私も立派なバカということ。「何がしたくないか」、については割と答えられるんですが。

Amazonで一時的に品切れになっているようです。この本が売上ランキング上位に入って「君たちはどう生きるか」と2冊並ぶと表紙のイラストが対照的で面白いのではないかと密かに期待しています。


P.S. 表紙のイラストだけでもいい感じなので小難しいことは気にせず買っちゃいましょう!!

*1:随所に『君たちはどう生きるか』への批判があることからの推測

*2:本文の表記にしたがってイスラムではなくイスラームを使用

*3:そんな質問をするなという意味だっただろうと思う

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