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書評:『日本人の英語はなぜ間違うのか?』

日本人の英語はなぜ間違うのか? (知のトレッキング叢書)

日本人の英語はなぜ間違うのか? (知のトレッキング叢書)

日本人の英語 (岩波新書)』、『続・日本人の英語 (岩波新書)』で有名なマーク・ピーターセン氏による日本人にありがちな不自然な(場合によっては間違った)英語の ついての考察エッセイ。

章構成としては以下の通り。

まえがき
第1章 英語教科書が抱える問題
第2章 時制が足りない日本人の英語
第3章 冠詞theと数への無関心
第4章 基本動詞・助動詞を使いこなす
第5章 仮定法の基本を理解する
第6章 人気者"so"の用法に関する誤解
第7章 itとthatを使い分ける
第8章 単語の無意味な「繰り返し」を防ぐには?
第9章 「論理の飛躍」が多すぎる
第10章 自然な英語を書くために
あとがき


各章とも英語で文章で書くうえで有意義な内容になっています。正直なところ、中学の教科書のダメ事例はスルーして、実際に大学生の書いた英文とその修正例を中心に読むのが良いと思います。

また、エッセイ本としての本書の結論をまとめると、中学校の教科書にある不自然な英語と大学生に良くある間違いに共通点があるというのがピーターセン氏の主張。そもそもの問題は文部科学省の学習指導要領にあるらしい。

中学校の英語の教科書にはおかしな英文が多数掲載されているという 事実の指摘と、それが大学生の英作文に悪影響を与えていると考えられる例を英語ネイティヴの視点で 丁寧に解説されている。本書では、この不自然な英文が教科書に掲載されるに至った原因として学習指導要領による学習内容の制限を挙げている。

日本の中学生用の検定教科書を批判が目的の本ではなくて、より自然な英文を書くためのヒントを書いた本ですので誤解なきよう。


具体例の幾つかは私も中学生の頃に見た覚えのある文章だったりして、びっくりというか、がっかりというか、文部科学省に対して釈然としないものがあります。


面白いのが英語の文法とは別に教科書に出てくる文章自体への批判。

いずれにしても、中学の数学や理科では高度な内容を教えるのに、なぜ英語の教科書の内容はこんなにも「幼稚」でないといけないのでしょうか。 (p.148 より引用)

中学校の頃は受験に意識が向いていて、こういう観点で英語の教科書を読んだことはありませんでした。


せっかくなので「あとがき」に描かれている著者による日本の中学校における英語教育に対する提言を引用しておきます。

理想的には、中学の英語教科書で、①過去完了形は過去形と一緒に、②仮定法は未来形と一緒に、③非制限用法は制限用法と一緒に紹介したいものです。 これらの文法事項を、豊富な例文を交えながら対照させながら覚えてしまえば、少なくとも、"用法をいつまでたってもよく把握できない" という生徒の数はかなり減ると思われます。 現場の先生方にとっても、最終的にはそれがいちばん効率的に英語を教えることにつながることになるのではないでしょうか。 (p.172 より引用)


2014年に出版された本なので文部科学省のお役人さまも読んでいておかしくないと思うんですが、どうなんでしょうか。 例文を対照させるという発想であれば、英語で書かれた文法書として定評のある 『English Grammar in Use』、『Essential Grammar in Use』もニュアンスのことなる英文を並べて説明している箇所がかなりあったように思います。


なお、マーク・ピーターセン氏の指摘に対する反論も存在しています。以下は一例(SUNSHINEシリーズの執筆者による反論)。

教科書の英語への理不尽・不穏当な批判について

読みにくいPDFであるがざっくり要約すると、①(マーク・ピーターセン氏が指導したであろう)大学生が使った教科書は旧版である、②そもそも学習指導要領にちゃんと従って作成しているから問題ない、③高校でも中学校の倍以上の時間を英語を勉強しているはずであるので中学生用の教科書だけの責任にするのはおかしい、という主張か。

語感についてはネイティブ意見が分かれるケースがあるだろうというのは理解したが、ピーターセン氏の方は「自然な英文を書くために」という視点で不備を指摘しているのでこの反論は枝葉にこだわりすぎてずれているように見える。あるいは自社の教科書以外に対するマーク・ピーターセン氏の指摘をちゃんと読んでないのか。

私は英語教育者ではないし、私が中学生だったのは十数年前だし、教科書もSUNSHINEシリーズではないのでなんとも言い難い。中学の教科書だけの責任ではないというのはそうかもね、と思ったのは確かである。

しかしながら、マーク・ピーターセン氏の方は、(中学生を子供扱いして?)変な制限をかけている学習指導要領に疑問を呈しているように読めるので、 (ポジショントークくさいが)「中学生に英語を教えるための工夫」と称して学習指導要領を金科玉条のごとく掲げたでの反論は説得力に乏しい。

検定教科書なので学習指導要領従うしかないのだろうが、英語教育者として学習指導要領そのものに携わったりしたのであろうか?

「中学生に英語という外国語を教えるにはどうするのが良いか?」というのは難しいテーマだろうというのは想像に難くないし、理解するが、 この反論内容はなんとも残念な内容に思える。教科書作成サイドとしての「気持ち」はわかるが、せっかくの指摘を理不尽だの不穏当というのはかなり感じが悪い。

いや、気持ちはわかるつもりです。お上の指示である学習指導要領の範囲で教科書作ったはずが、いきなり批判対象になってるわけだから。

反論を書くだけでなく、マーク・ピーターセン氏は大学生の英作文に見られる問題点の多くが中学の検定教科書に見られると指摘しているのであるから、中学生用の教科書だから問題ないではなくて、 改善のための参考にする、ぐらいのスタンスを示した方がまだよかったんではないかな。


まあ教科書作成サイドの反論はともかく、なかなか面白いエッセイ本です。というか、日本の中学生用の検定教科書を批判するための本ではなくて、より自然な英文を書くためのヒント満載の本です。


ではまた。

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