知識のブラックホール

知識収集活動全般。

実は日本お高齢者の生活水準は高い…(書評:『マーケティングに使える「家計調査」』)

紙媒体のほうを買った後にKindle版発売という悲しい状況。買ってから1ヶ月以上経ってますが、なんだかんだでようやく読了。

まあそういうコトもありますが、どうせ出すなら同時にリリースしていただきたい。

総務省が実施している「家計調査」のデータをもとに色々と考察をしている本。学校教育の話から都道府県別の傾向まで。

本の概要

第1部がいくつかの具体例を挙げて従来の消費・経済理論の不備をデータ分析結果から指摘するという内容。 第2部は都道府県別の消費傾向(食品)の解説。

第一部で解説されているのは、概ね以下のような内容(各章のタイトルではないです)。

  1. 秋田の小学校教育 と教育コスト、進路への波及効果
  2. 高所得層への売り込みに成功している品目の分析(コーヒーより紅茶)
  3. 冬服バーゲンと消費の実態
  4. 生活水準とエンゲル係数の誤解
  5. 食パンの価格と消費量など消費量と購入価格の分析
続きを読む

四則演算から心理学へ 書評:『良い値決め 悪い値決め ——きちんと儲けるためのプライシング戦略』

ずいぶん間が空きましたが、今回のお題はこれ。 某社のCTOさんのブログで紹介されていた本です。

いつも通り、章のタイトルなどの二重カッコは引用です。

面白い・興味深いと思ったところ

以下、各章で面白い・興味深いと思ったところを抜き書きしています。 電子書籍につき、ページ番号は無意味なので省略します。

第1章

「世の中は単純であるほうがいいが、過度な単純化はよくない」 by アインシュタイン

45度線分析(損益分岐点の図)への批判。要は単純化しすぎ、らしい。これはまさに四則演算世界ですね。それも引き算と割り算の世界。 著者のいうように、「儲けは一個の儲けの積み重ね」。これは掛け算と足し算かな。 言い換えると、一回の取引あたりの利益の積み重ね。

結局のところ、日本は四則演算の国なんですよね。

微分積分とか、確率統計が絡むとダメダメ。

何かの本で読んだのか聞いたのか、忘れましたけど、日本のマスコミは応用数学が苦手というのがあったような気がします。

時事刻々と変化する販売価格と原価・販管費。四則演算では表現できませんよ。 確率統計なしで市場規模や今後の売上予測を立てるつもりかと。


予算というなの売上目標…これはいやですね。

恐ろしいと思ったのは以下のくだり…

「企業が躓くのは、正しい問いに間違った答えを出すからではなく、間違った問いに正しく答えるからである」

イノベーションのジレンマを彷彿とさせますね。

第2章 『ドッグ(DOG)ビジネスは「無料」に向かう』

読んでいてインターネットは貧乏神、という話を思い出した。一番素晴らしいと思ったのはピカソの逸話。

ある夫人の依頼でスケッチを描いたピカソ(所要時間3分間)。価格を訪ねる夫人に価格を告げると 当然、「たった3分描いただけで?」という反応。

対するピカソの答えは…。

「いいえ、私はここまで来るのに、一生を費やしています」


いや、素晴らしいですね。日本人は謙虚を美徳という前に、こういう自信とういか、覚悟を決めなければ。

第3章 『値下げが成功する場合、失敗する場合 』

この章の要点

  • 商品1個当たりの固定費については後で考える
  • 商品1個当たりの価格(変数)と、商品1個当たりの変動費に着目する
  • (商品1個当たりの利益(M)×販売量(P))が固定費(F)より大きくなる状態を創り出す
  • 値下げ分をカバーするだけの売上を確保するのは容易ではない

仕入れ量の増加による「商品1個当たりの変動費」の変化が考慮されていない?

第4章 『そろそろ「値決めの哲学」を持とうじゃないか!』

値下げを阻む壁

  1. 自らのキャパシティの限界
  2. ライバルの値下げ追随
  3. 顧客の消費感情

バリュー・プライシング式

売価 − 利益 = コスト

顧客がどれだけの価値を認めてくれるかに着目する。

そういえば何かの本に「価格は高ければ高いほどいい」みたいな話があったな。

伝家の宝刀?

予算不足その他を理由に値下げを迫られたら…

「こちら少ない時間で運営しており、高額をいただかないとお伺いできません」

素晴らしい。

第5章 『顧客満足「高」価格をつくる「まぜプラ」』

ビジネスモデルの転換とか。キーワードは「また来よう、また買おう」かな。 ジレットの話など、消耗品モデルから、フリーミアムではない2着目無料の無料モデル、そしてオンラインとオフラインの相乗効果への変遷。

第6章 『顧客に心地良いサプライズをつくる「ここプラ」

定価の半額で商品を3個売る場合よりも、「3個買えば1個無料」のほうが利益は大。 顧客への訴求力も大。

モノは言いよう

悪い例:『英語力が不足する』

良い例:『日本語が得意です』

英語を無理に勉強するより、漢検とか日本語検定の1級を取得して、日本語力をアピールするほうがいいかも知れない。

第7章 『トップセールスに学ぶ、比べさせて売る「売る」』

有名な松・竹・梅。これは世間体と損したくないという心理をつくプライシング。

最初に低価格だと、あとから値上げするのは困難。そこで定価は高めにし、キャンペーンなどの口実で最初だけ値引きする。

アンカリング

最初は相手に不利な条件を提示して、後から相手に有利な条件を示す。

返報性

意図的に高めの価格を提示して、妥協するふりをして本来意図した価格を提示する。 相手が妥協したから自分も妥協せざるを得ないという心理を利用する。

ハンター×ハンターという漫画に、わざと不合理な要求を突きつけて妥協を引き出すってのがありましたね。チンピラの手口。

第8章 『顧客の困りごと、悩み、不満を和らげて2.5倍売る「やわプラ」』

顧客への共感の大切さ。ほんの一言、添えるだけで印象が変わる。事務的で冷たい印象を持たれるか、そうでないかで次に繋がるかが決まる。

問題解決が得意なエリート・コンサルタントの男性には離婚が多いのです(おっと、バラしちまったぜ)。

原文ママです。おいおい…。

気になったこと

人工知能は?

アナログの優位性を謳ってはいるけれど…。人工知能の進化を計算に入れてないのかな? というところが気になる。

「気が効くねぇ」をディジタル化できるか

いくら顧客の誕生日や住所を把握しても、果たして「気が効く」というのを デジタル化できるかだろうか?

そのあたりが著者がアナログを押す理由かな。

デジタル化で思いやり、気配りが消えていくのかな。

まとめ

顧客心理だけでなく、値決めをする側の心理(=メンタルブロック)の問題がかなり大きいのかなという印象。

生兵法は怪我のもと、とはいうけれど実践的なプライシングや価格交渉のノウハウがたくさん詰まっている。 フリーランスから経営者まで、非常に良い本だと思う。

ではでは。

敷かれたレールに挑戦する?(書評:ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか)

Kindleのポイント還元でまたポチッといってしまいました。今回紹介するのは「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」です。

著者について

PayPal の創業者、ピーター・ティール氏の書いた起業のヒント本です。というか、いわゆるエリートコースへの挑戦乗でしょうか。

正直なところ、ときどき(止むを得ず)PayPalを利用することはありますが、どういう人間が立ち上げたのかということには無関心でした。 意外なことに法曹界を目指しながらも挫折して起業家になったそうで。

高校時代に爆弾を自作したとかどうか書いてあるので、根っこの部分でテクノロジーオタク的なところがあったのか。

面白いと思ったところ

世界的に成功した起業家の思考パターンを垣間見ることができるというのは貴重です。IT系の起業家、プログラマで有名な方というのは結構な確率でSFに影響されているようで。

本書の著者の場合はSFに登場する電子送金に影響を受けたとか。 日本の経営者とは完全にスケールが違いまよね、そもそもSFに影響を受けて起業して。その上で世界を変えてやろうというノリは日本ではまず無さそう。子供のような発想でありつつも、スケールが大きいというのがアメリカのすごいところ。

PayPalの創業者の考え方は日本のIT関係者だとペパボの家入氏が近いのかな、という印象。 採用についてとか、プロダクトはどうあるべきかという点についてだけで、人間としてはもちろん別です。

機械と人間について

私が一番面白いと思ったのは機械と人間の関係に対する著者の考え方。

(前略) どちらの側も、より能力の高いコンピュータが人間の労働力に置き換わるという前提を疑っていない。だけどその前提は間違っている。——— コンピュータは人間を補完するものであって、人間に替わるものじゃない。 これから数十年の間に最も価値ある企業を創るのは、人間をお払い箱にするのではなく、人間に力を与えようとする起業家だろう。

Googleに代表されるようなIT系企業の技術者、経営者はコンピュータを全能であると捉えがちな気がしますが、この著者はそうでないようです。 人間を補完するものという考え方は新鮮。

確かに新しいイノベーションの普及に際して、人間という既得権益者を排除しようというとすれば反発は必至でしょうし。 誰かを攻撃するような宣伝は場合によっては人を不快にする可能性があるわけで、誰かを傷つけない、不安にさせないような宣伝の仕方が重要なのかもしれません。

ことさらにコンピュータの優位や技術の素晴らしさを強調するだけだと失業の不安や社会への悪影響を懸念する声が高まるのは確実でしょう。 その点、この本の著者のスタンスは面白い。

人間と機械が全く違うということは、コンピュータと手を組めば、人間と取引するよりもはるかに多くの利得があるということだ。

ありがちな機械(コンピュータ)が人間の仕事を奪うという考え方とは違う発想。 コンピュータ恐怖論者に読んでほしいですね。

営業の重要性

ずいぶんとしつこく作れば売れると思うなよ、と警鐘を鳴らしています。たしか未来工業の社長さんの本にも似たようなことが書いてあったような気がします。中小企業こそ営業が重要だ、とか。

ただし、目先のノルマのために非道を働くような営業は「セールスマン」としてこきおろしています。同時に営業を軽んじる技術オタクもこきおろしていますが……。

演技と同じで、売り込みだとわからないのが一流のセールスだ。 営業にしろマーケティングにしろ宣伝広告にしろ、販売にかかわるほとんどの人肩書きが、「営業」と無縁なのはそういう理由だ。

なかなか面白いですね。訪問販売や飛び込み営業とくれば警戒するのは当然ですから、そういう露骨でない営業というのは盲点です。 例えば携帯電はにしても、テレビCMや雑誌、ネットから情報を得ているわけで、そういう宣伝こそ営業、ですね。

そういう意味では一般消費者には営業という言葉は死語で広報だのマーケティングだのといった、イメージ戦略が大事なんでしょう。

商品の販売価格に応じてアプローチを変えるべしとも書いてあります。

あとはおまけ。

マスコミを信用しないおたくたちはマスコミを無視しがちだけれど、それは間違いだ。

へいへい。

べき乗則について

度々「べき乗則」という単語が登場します。結局のところ、有名なランチェスターの第二法則のことでしょう。。一対一ではなく、状況に応じて一つの施策が何倍もの効果が産むようなものを活用しろ、と。IT系サービスの世界でいうネットワーク効果とか。

また、最初に小さな市場で熱烈なファンを獲得しろという著者の主張もランチェスター的です。こちらは第一法則、つまり武器性能と兵力の多寡が勝敗を決するという理論。

ランチェスターの法則 - Wikipedia

ランチェスター戦略については「三国志で学ぶランチェスターの法則」がオススメです。三国志をと絡めて各種の戦略論を紹介している本です。

残念なところ

翻訳者よりも日本語版序文を書いたコンサルタント崩れの名前がアピールされていて幻滅です。 巻末の著者プロフィールに日本語版の序文を書いただけ、の人間のプロフィールを書く必要など存在しないはずです。

Amazon.co.jpのレビューにある通り、日本語版序文は読み飛ばして問題ないです*1。マーケティングだろうと広告宣伝でか知りませんけどね。 私自身、この序文を書いた方の著書は有益であると思いますしが、変なところにしゃしゃり出てドヤ顔しないでいただきたい。

まとめ

なんというか逆張り、常識の逆をいくという感じの内容の本です。ただの天邪鬼でもなければ技術オタクでもない。一般的な「おたく」がやりがちな失敗を上手く回避したというのが著者の成功の一番の要因に思われます。

うまく流行のトレンドを掴みつつも踊らされないという点でさすがにシリコンバレーの投資家だよなあ、というのが一番の感想です。

読み物としても面白いですが、企業のみならず株式投資へのヒントとしても参考になると思います。


ではでは。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

三国志で学ぶランチェスターの法則

三国志で学ぶランチェスターの法則

*1:商業主義に加担するという点で序文を書いたご本人のイメージダウンでは?

かつての時代の寵児の一代記(書評:『わが闘争』 by 堀江貴文)

Amazonの割引キャンペーンにコロッとやられて一気読みしてしまいました。

堀江本は4冊目ですね。

紙の書籍の3分の1の価格までディスカウントされていたもので。
実は売れてないのかな、コレ。

内容をざっくりいうと、過去の書籍の生い立ち部分を詳細化+オン・ザ・エッヂ創業から逮捕・服役・社会復帰あたりまでの自叙伝。 アニメでいうと総集編を映画化したような感じ。

別にホリエモンマニアって訳ではないので、今まで文章化されていなかった内容をどれぐらい含んでいるかはちょっと判断できない。

とは言ってもただの事実の列挙ではなく、当時何を考えていたかという点に重点が置かれているという印象。

近鉄買収騒動あたりからのリアルタイム世代としてはかなり面白かった。ホリエモンこと堀江貴文氏といえばlivedoorであるが、 それ以前からの社名であるオン・ザ・エッヂと言う名前。実は昔、アスキーからでていたLinuxマガジン(Linux Magazine)にもちょろっと社名が出ているのをみた覚えがある。

根拠のない自信

基本的にはホリエモンの反骨精神あふれる自伝であるが、印象に残ったのは次のフレーズ。

中学高校と勉強していなかった堀江氏、高校3年、東大受験を決意すると…

難しいことなんてなにもない。集中力さえあればできる。僕のポテンシャルは決して低くないのだから。(第二章 パソコンと思春期:実家を脱出するには東大に行くしかない)

会社創業時も…

どんな会社だって、誰かが起業するところから始まったのだ。 僕にできないわけがない。 (中略) やれる。ぼくはきっとやれる。(第五章 新米社長:見よう見まねの事業計画書)

自分の能力を信じて疑わないというか、根拠のない自信。ではあるんだけど、終始一貫、これがブレない。結局これに尽きるように思う。 「明日から本気出す」とか「勉強したら負けだと思っている」なんていいながらただダラダラし続けて終わるかどうかの境界はこの辺りにあるのではないか。


改めてホリエモンの幼少期について読んでみると、どこにでもいそうな田舎の子供に思える。学校および家庭の両方で、かなりの不合理な仕打ちを経験しているように読める。逆に言うと、不合理な体験の数々を経験したからこそ、あの際立った合理主義思考に行き着いたのかと思うと興味深い。

ニッポン放送買収事件

良くも悪くもホリエモンの知名度を一気に高めたあの事件。当時は毎日、夕方のニュースで一進一退の攻防をワクワクしながら見ていましたが…。 当事者である堀江氏側の目論見をあれから約10年経って知るというのは感慨深いですね。

テレビ局を買収してどうするの?テレビにlivedoorのURLを表示してもそれほど変化はないんじゃないか?と思いなが見ていました。 フジテレビと和解(?)したときの、あのホリエモン猫なで声の記者会見も印象的でしたが。

SBIの北尾氏の記者会見の、自分の頭を指差してくるくると指を回すホワイトナイト宣言とかね。

さて、本書のホリエモン側の言い分を読んでみた感想。まあなるほどね、という感じでしょうか。 どうやらテレビ局の将来性を完全に見限った上で、広告媒体としての価値だけを見たうえでの買収だった様子。 Yahooに対するポータルサイトとしてのlivedoorの知名度向上を図るうえで、テレビという媒体を使おう、斜陽産業になることが確実であろうテレビ局とはいえ、あと数年は役に立つという計算。

当時としてはちょっと先をみすぎていないか、テレビの将来性について悲観しすぎでは?という気もします。数年前からテレビ自体を所有していない私としては、まあ外れてもいないのか、とも思えなくはないです。ただ、ラジオが未だに存続しているように、テレビ局自体が消滅するかといえば、それはないでしょう。

今となっては目的の割には大きすぎる博打ではなかったかと思います。経営者としての慢心もあったのかな?

ライブドア事件、そして

あと印象的だったのは人材採用。基本的に知り合いのつて、つまりコネ採用と大学の掲示板が中心だったようです。あまり新卒一括採用みたいなことをやる以前にコケた感じですが…。 問題は件の宮内氏でしょうか。

livedoor本社への強制捜査後に横領が発覚したとかいう宮内氏ですが、度々事後承諾で物事を進めていたり、かなり問題あったように書かれています。学歴詐称やら何やら、きな臭さ抜群…。ワタミ渡辺美樹氏も外部から招聘した経理担当と揉めたとか著書に書いていたように思いますが、経営者にとっては財務・経理を任せる腹心の部下をどれだけ信用できるかがキーポイントなんですかね。人を見る目の重要性。

まとめ

最後はいつもどおり宇宙開発云々といういつもの夢物語でおしまい。前回の『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』がどちらかというと人生論だったのに対し、こちらは自叙伝、要するに前半生をまとめた自伝ですね。恥ずかしいエピソードの含有率はこちらの方が多めです。

娯楽として、または堀江氏個人への興味という観点から言えばこちらがオススメかと思われます。


それではまた。

『嫌われる勇気』とホリエモン その2

ちょっと書きそびれたことがあるのでその2

audiobook.hatenablog.com

あくまでも本人の著作を性善説にもとづいて読んだ上での感想です。

アドラー心理学の実践者としてのホリエモン

世間的には目立ちたがり屋、つまり承認欲求の権化のように思われているホリエモンであるが、実際どうなんだろう。

少なくとも少年期については「退屈な田舎」から抜け出したい、という思いが行動原理のひとつであったように見える。 もう一つは遊びへの熱中。

個人的な解釈としては、収監前については会社のイメージ戦略としてメディア露出を意図的に増やしていたと思っている。 服役後については、収監前に築いた知名度を(生活費を得るために)活用しているのかな、という認識。

承認欲求を満たす、という側面だけであれば、youtubeで動画を垂れながしていれば十分で、何も会社経営にまで関わる必要はないだろうし。堀江氏の「はたらきたい」というのはアドラー心理学でいうところの「他者貢献」なんではなかろうか。 アドラー心理学においては、例えば親の財産を食いつぶすドラ息子、寝たきり老人でも世界の役に立っている、と考えるらしい。

なので、金銭という見返りのためであっても自分の外との関わりがあれば何でも「他者貢献」になるはず。 堀江氏の場合は、承認欲求がメインではなく、他者との関わりをもとめて「はたらきたい」という意思がでているのではないか。

『嫌われる勇気』などのアドラー心理学関連本を読まれていないとさっぱりだと思うが、中途半端な説明はかえってマズいと思うのでGoogles先生にお尋ねいただきたい。

結局、ホリエモンは何を成し遂げたのか?

livedoorのサービスで認知度が高く、存続しているのはRSSリーダーLivedoor Reader、現在はLive Dowango Reader:LDR)と、livedoor Blogというブログサービスだと思われる。

どちらも画期的という感じはあまりない。球団買収やニッポン放送株の取得など世間をおおいに騒がせたホリエモンであるが、特にこれといったプロダクトは残していないといってもよさそう。

具体的なプロダクトは残さなかったが、少なくとも世の中の空気を変えたのは確かだと思う。200X年代ののベンチャーブーム、企業買収とその対策の必要性など社会へのインパクトは大きかったと思っている。「空気を読む」ことが美徳とされる日本社会で、世間の空気を書き換えて見せたことは大きいと思う。

なぜあんなに反感を買うような振る舞いをしていたのか?

いわゆるライブドア事件以前の、ホリエモンの言行について、当時はなんとなく違和感があった。 私の違和感は大きく以下の二つ。

  • わざわざ世間(中高年)の反感を買うような振る舞い
  • 『「時価総額世界一」を目指す』という(当時の)目標設定

最近の堀江貴文の言行については、テレビを保有していないのでネットや書籍でしか知らない。それにしてもライブドア事件以前の彼はなぜあのような「わざわざ他人の反感を買うような振る舞い」をしていたのか?

そしてもう一つ『「時価総額世界一」を目指す』というもの。定量的に評価できるものなら売上高でも利益でも利益率でも問題はないはず。

一つ目の違和感について。これは『ゼロ』を読んだ印象として、世間の印象より不器用でナイーブだったんでしょう。織田信長が「うつけ」のフリをしたのと同じようなものかと思えなくもないが、結果として悪影響が顕著なのでそれはなさそう。少なくとも他人の目を気にするジコチューではなかった様子。

結果さえ出せば文句は言われないでしょ、というどこか子供っぽい考えがあったんだろうと思う。この発想は結構プログラマに多いし、自分もこれはよくわかる。形式ばかり気にするお役所仕事や権威主義へのアンチテーゼ。もしくは一種の強がりか。

二つ目の違和感について。
当時はなぜ時価総額なのか疑問だった。定量的に評価できるものなら業績を直接反映するものでなく、市場シェアとか顧客満足度とかでも良かったはず。わざわざ純利益や利益率を使わなかったところに何か負い目があったのかとも考えられなくはない。

企業の社会的イメージ、ようするに風評による影響の大きい時価総額を目標にしてどうすんの?と思ったものだ。

個人の想像に過ぎないが、会社の業績そのものはともかく、状況に至るプロセス、つまり、理屈の通じない両親に対して、中学受験や東大合格という実績で親の反対を抑え込んだ経験が原点ではないだろうか。他の業界の企業と比較するとき、業界ごとに利益率というのはおおまかな相場があるので一概には比較できない。また売上高では企業に規模の面で不利だと考えたのか。はっきり言えば「僕の会社はトヨタよりスゴイんだ!!」と言いたかったのかな。

ライブドア事件以前の堀江氏にとって、企業としてナンバーワンであることを示すわかりやすい指標が時価総額だったのだと思われる。

時価総額という指標を選んだことについて、虚栄心か、あるいはなんらかの嘘が含まれているのかも知れない。その辺りが逮捕・有罪判決・収監へと繋がったんじゃないかと思う。極端なことを言えば、斎藤一人さんのように、「納税日本一」を目指していれば会社の向かう方向も違っただろうし、逮捕されるような事態までには至らなかったと思う。

少なくとも良かれ悪しかれ日本の若者に影響を与えたのは間違いない。

それではこんなところで。

嫌われる勇気

嫌われる勇気

広告